ボロアパートに帰宅したボクは、原田妹の寂しそうな表情が気になった。
「やっぱ頼んでおいて、漫画は効率が悪いとか言っちゃ、マズかったよなあ」
大型ショッピングモールのセールで、2個で300円の冷凍スパゲティをレンジで温めながら考えた。
「漫画は生産効率が悪いのは確かだ。動画に比べて、あまりにも悪い」
ガラスの向こうで、オレンジ色の光を浴びて回転する、皿に乗ったスパゲティ。
「自撮り解説系の動画なら、素材はカメラを回せば手に入る。ゲーム実況なんかも、画面キャプチャでOKだ」
電子レンジが『チン』と言った。
「でも漫画の場合、素材を手書きしてるのだから、効率が悪いのも当然か」
分子振動で熱くなった耐熱皿を、なんとかテーブルまで持っていって、袋のまま食べる。普段なら皿に出すところだが、今は皿を洗う気力が起きない。
「さすがにそこは、どうにかなる部分では無い気がするなあ。確かに、用意された素材で、お手軽に漫画を作れるソフトもあるし、画像加工ソフトで画像を漫画風に編集することもできるが・・・」
インスタントとはいえ、スパゲティーはファミレスで出てくるくらいのクオリティはあった。
「じゃあ、漫画ってなんだ? 動画で良くね? あえて漫画でやる理由ってなんだ?」
ボクは自答した。
「うん。とてつもなくあるな」
直ぐにいくつもの答えが、頭に浮かんだ。
「漫画なら、リアルなロボットに乗る主人公の話や、冴えない少年がスポーツで爆発的に成長する物語だって描ける」
それは、個人レベルの動画では無理な話だった。
「美少年や美少女だらけの恋愛漫画や、連続殺人の起きるミステリーやサスペンス、魔王を倒す異世界モノだって、思いのままだ」
有名動画サイトでも、これらの動画を個人で制作しアップしてる人間は皆無だ。
「まあ著作権を無視して、アニメをアップしてるヤツらは別だがな」
スパゲティーを食べ終えると、袋だけ捨てて綺麗な皿は食器棚へと戻した。
「便利な世の中になったモンだよな」
レンジで暖めるだけで、ファミレス並みのスパゲティが喰える時代である。
「でも、それだけじゃ無いハズだ」
次の日の午後、ボクは原田に連絡を取ると、原田の妹は学校を休んだとの事だった。
ボクは、原田の家の前に立っていた。