「ワタシ、フランスから来たネ。ニッポンのアニメ、マンガ、とてーもスバラシイね」
イリヤは片言の日本語ではあったが、意味は通じた。
「ワタシもマンガ描いてるね。でも、ウチのガッコ、マンケンないね」
日本も、国際色豊かになったモノである。
海外からの観光客も増えたし、コンビニの店員も外国人が多くなった。
「つまり、二人も漫画の発表の場が欲しいと?」
「そ、そうです」「イグザクリー」
市川さんと、イリヤさんが答えた。
「あれ、イグザクリーって英語なんじゃ?」
ボクは疑問に思いつつも、日本人だって英語を話すのだと思いなおし、話を進めた。
「それで二人とも、どんな感じの漫画を描くのかな?」
「あ、それなら原稿を持ってきました」「これね」
二人から原稿用紙を受け取る。
「なる程。市川さんは絵も話も、かなり少女漫画寄りなんだ」「は、はい」
「わたしはまだ、少年漫画寄りな方っス」「確かにそうだな」
もう片方のイリヤさんの原稿に目をやると、少年漫画風の絵柄ではあるものの、前の二人と比べて、画力はまだ劣っていた。
「ううん。イリヤさんのはまだ、粗削りな感じがするなあ?」
「マンガ描き始めて、三年目ね。これからもっとっもっと、シュギョーね」
フランス人留学生は、前向きだった。
「とりあえず、頭数というのであれば、載っけたらどうっスか? わたし一人で描いてるだけじゃ、雑誌の意味もないっスから」
それはもっともな意見だった。
「そうだなあ。オレの方向性としては、少年マンガ路線で行きたいところだケド、贅沢は言ってられないよな?」
「でも、お兄さんは企業の漫画を描きたいんスよねえ?」「まあそうだケド」
「なら、提案があるっス。二人はまだ、描く漫画の方向性も決めてないんスよ」
「は、はあ?」ボクは、原田妹の意図が、読み取れなかった。
「だから、仮想の企業と仮想の商品を作ってっスね。それを描いてもらうってのは、どうっスか?」「な、なる程」それは名案だと思った。
原田妹が描いたのは、普通の少年サッカーマンガであり、プロサッカーチームなどの漫画となり得なくも無いが、最初から狙ったものではなかった。
「もし、二人がそれでいいなら、だけど・・・どうかな?」
「そ、そうですね。良いと思います。わたしはまだ、自分が描きたい話も確立していないので、勉強になると思うんです」
市川さんは、茶髪の外見に反して、根は真面目なコだった。
「これもシュギョーね。ドントコーイね」
イリヤさんも、とりあえず前向きだった。
「決まりっスね。それじゃあ、お兄さんのアパートにレッツゴーっス」
「ええ、今からウチ来るのォ?」ボクは部屋の現状を、脳裏に浮かべた。
「また何か、見られてはいけないモノでも、あるっスか?」
「な、なな、無いよ。でも、二人は・・・?」
市川さんと、イリヤさんは、すでにコーヒーを飲み干し、荷物をまとめていた。