「それじゃあ、ペン入れに入るっス」「どれくらいかかりそうだ?」
「5ページくらい、今日中には終わると思うっス」
原田妹は、三人の友達に枠線引きやベタ塗りの指示を出し、作業を分担した。
意外にも、枠線は水性マーカーで引かれ、それを原田妹が次々にペン入れする。
「なるホド・・・こうやって実際に原稿用紙にペンが入っていくのを見ると、勉強になるな」「お兄さんも遊んでないで、消しゴムかけてっス」
原田妹は漫画を描き始めてから、目付きや性格が変わった。
制服のスカートの下に、学校指定のジャージを穿いた女子高生たちは、5枚の原稿を完成させようと必死だった。
やがて窓からオレンジ色の光が差し込み、そのうち夜になる。
「あ、あの・・・まだ完成しない?」「う・・・うう・・・」
「あのさ、原田」「これ、今日中は無理っしょ?」
原田妹は、顔を縦に振るのをためらっていた。
原稿は2ページが八割がた完成で、3ページが二割程度といったところだった。
「今日はもう遅いから、作業はまた今度にしよう。夜道は危ないから、送っていくよ」
ボクは三人の女子高生を駅で見送り、原田の妹を家まで送った。
「も、申し訳ないっス。完成させるって言ったのに・・・」
「いや、キミたちが手を抜いていたのならともかく、全力で作業しての結果だ」
ボクは心からそう思った。漫画作業を始めてからの彼女たちは、とてもまじめで作業に集中していた。
「漫画ってのが改めて、手間がかかる媒体なんだって、思い知らされたよ」
四人が分担して五時間の作業をし、それでも原稿は完成しなかった。
「漫画が完成したら、読むのはたぶん1分もかからないだろう」
「・・・そうっすね。コスパ悪すぎっスよね?」
原田妹は、うつむいていた。
確かに原田妹の言う通りだった。
動画であれば、個人で毎日投稿している人間もいる。
けれども今日の作業を見る限り、漫画にそのスピードを求めるのは無理だと感じた。
「でも、漫画家ってのは皆、こうやって漫画を描いてるんだ。こりゃ、ネット漫画雑誌のサイトも、気合入れないとな」
ボクは愛想笑いをしたが、原田妹は返事もせず家に入っていった。
空を見上げると、妙に黄ばんだ月が黒い雲に隠れていく。
「こりゃ・・・根本から考えないとな」
帰りの夜道を歩きながら、ボクはトボトボと考えた。