過去
自動ドアは、耳慣れた入店音を奏でながら開く。
入って来たのは、髪の長いグラマラスな女性だった。
「あ、あれ? 末依先生?」
コンビニに入って来たのは、芽美たちの担任である末依 乃梨先生だった。
「……え?」末依先生は、ほんの僅かだけ驚きを見せる。
「あ、あら、お仕事の打ち合わせですか?」「ええ……そんなところです」
事務的な会話に切り替わる、末依先生。
「先生は夜食でも、買われるんですか?」「ええ、まあ」
すると、夜吸さんが言った。
「何がええ、まあだよ、乃梨」
「ゲッ!! カズミ!? ど、どうしてこんなところに!?」
ボクは、依先生の意外すぎる反応に驚く。
夜吸 数見と、末依 乃梨は、知り合いだったのだ。
「そういやお前、学校の先生になったってどこかで聞いたわ」
「だから、どうしてあなたが、ここに居るのです!」
「コイツに漫画を依頼したんだよ。んで、今日は偶然会った」
夜吸さんが向けた親指の先には、ボクが居た。
「あなたは、こんな男と取引しているのですか?」
「は、はあ。そうなりますが……」怒りの矛先が、ボクに向けられる。
「オイオイ、こんな男と付き合ってたのは、どこのどいつだよ?」
夜吸さんの決定的な一言に、ボクの頭の中は真っ白になった。
「で、では……ボクらは、これで……」「し、失礼を……」
ボクと佐藤は、コンビニを脱出しようと試みる。
「どこへ逃げようと言うのです? 話はまだ、終わってませんよ?」
末依先生の美人メイクの、裏側を見た気がした。
「大体カズミは、漫画家になるのが夢だったじゃない!」
「ッせーな。古い話を蒸し返すなよ。それよりお前が担任ってコトは、女子高生にコイツのアパートへの出入りを禁止したのって、お前かよ?」
「当然の措置です!」「まあ、そりゃ先生ならそうなるわな」
夜吸さんはレジに行くと、コーヒーを二つ持って戻って来た。
「ま、これでも飲めよ。砂糖、三本だっけ?」「何で上から目線なのよ」
そう言いつつも、コーヒーを受け取る末依先生。
「とは言え、お前さ。生徒の夢も叶えてやりたいとか、思ってるだろ?」
「そ、それは……」先生の顔に、不安と戸惑いの表情が現れた。
「今回の件だって、ただ禁止にするだけじゃあ、お前らしくないぜ」
「どうしてあなたは、いつもそうなのよ!」
先生は、とても悔しそうに言った。
「でも、確かにそうだケド……何か良い方法は無いのかしら?」
「やっぱコイツに、オフィスを持たせるしか無いだろ?」
「えええええーーーー!!?」ボクは、思わず叫んだ。
「お前のアイデア、意外といけるかも知れんぞ。ネット漫画雑誌にファンも付いてるし、企業にも売り込み易い。どうだ? オレにも一枚、かませろよ?」
ボクは再び、現実逃避したい気分になった。