青春の思い出
夜吸さんのいきなりの一言に、ボクも芽美も大野さんも仰天する。
「まあ、これから乃梨の両親に会うワケだ。そこが難問なんだが……」
「こんなチャランポランな男に、大事な娘を渡せないったヤツっすか?」
「うるせえよ、ちびっ子!!」「やっぱ、図星っすね!?」
「芽美も、その辺にしとけ」「は~いっス」
夜吸さんは、機嫌を悪くしたまま、チャイムで店員を呼びつけた。
「ナポリ風リゾットを一つ、あとドリンクバー」
「わたしは、ハンバーグランチで……あと、ドリンクバー」
ボクらがいたのがファミレスだったので、二人はファミレスらしい注文をした。
「あれ、肉食系の夜吸さんが、今日はリゾットなんですね」
「うっせえ、これから親に会いに行くってのに、肉なんか胃に入るかよ!」
「乃梨ちゃんは入ってるっスよ?」「先生の場合、自分の両親だろ?」
「なるほどっス」芽美は納得した。
「でも、驚きましたよ。いきなり結婚だなんて」
「お前が知らないだけで、こっちはこっちで色々あったんだよ」
それも、その通りだった。
「だけど、とうぶんは乃梨ちゃん先生の収入で、食べてくんだよね?」
あからさまに失礼なコトを言う、大野さん。
「おい、お前。漫画家のしつけがなっとらんぞ!?」
「オ、オレのせいですか!?」
運ばれてきたリゾットすら、中々減らない夜吸さん。
「その頃、乃梨は生徒会の委員長で、オレは……札付きの不良ってほどじゃねェケドな。真面目では無かったワケだ」
「それで、よく付き合ってましたね?」
「オレが授業をさぼって、渡り廊下で漫画を読んでたら、コイツがいきなり取り上げやがってよ……」
「ひょっとして、『この漫画、わたしも読んでるわ。……けっこう面白いわよね?』ってヤツっすか?」
「オイ、芽美。勝手に……決め……!?」
ボクが結婚予定の二人を見ると、二人とも顔を真っ赤にしていた。
「うわあ、ベタ……ベタベタっすねえ~!?」
「オイ、ちびっ子!! コイツ、マジでなんとかしろ!!?」
ボクは末依先生と席を変わって、ロクなセリフを吐かない口を押さえつけた。
「でも、末依先生も、漫画に興味があったんですね」
「実を言うと、漫画雑誌に何度か投稿もしてるのよ。けっきょく、日の目を見ることは無かったから、あなたや原田さんたちのネット漫画雑誌は、応援したかったのよ」
「そうでしたか……」
先生は、ボクのアパートで、芽美たちが作業するのを止めた張本人だが、それはボクたちのネット漫画雑誌を潰したくなかったからだった。
「それでよ……お前に実は、頼みがあるんだ」
夜吸さんが言った。
「オレの知り合いの漫画家の面倒を、みてやってくれないか?」