夜の雨
「芽美は……ボクが、プレッシャーに押しつぶされて、ネット漫画雑誌から逃げ出したときも、こんなボクをビジネスホテルまで迎えに来てくれた……」
ボクは電車に乗って、ビジネスホテルに向かった。
受付やロビーも探し、自分が泊った部屋を見せてもらったが、部屋は綺麗に片付いていた。
「やっぱ、居ないか……アイツ、みんなと居るときはうるさいケド、普段は割と内気らしいからな」
ボクは、再び電車で引き返す移動中、原田兄にも連絡していみた。
「おい、ウチのバカ妹は居たか!?」
「ダメだ……今、芽美と行ったホテルにも行ってみたが、居なかった」
「ホ、ホテルゥゥゥッ!? ……おま、アイツと!?」「また連絡する!」
「オイ、ちょっと……」ボクはスマホを切った。
それからボクは、かつて芽美と行った場所をくまなく巡る。
「ファミレス、名古屋発祥の喫茶店……ダメだ、どこにも居ない」
足が棒のようになり、ヘトヘトになるまで歩き回った。
空には黄色い月が浮かび、黒い雲がそれを隠そうとしていた。
「雨まで降ってきやがった……」
ボクは行ったコトの無いコンビニに入って、山口さんや萩原さんに連絡すると、グンナーさんは帰ったとのコトだった。
「すまない、グンナーさん、みんな。この埋め合わせはするから」
ボクはスマホに片手で謝ると、再び夜の雨の街を走り出す。
けれども、広大な大都市から少女一人を見つけ出すなど、到底不可能なコトだった。
「まったく……どこに行ってしまったんだ……芽美」
ボクは仕方なく、家路に付く。
「最初に、ボクのネット漫画雑誌に漫画を寄せてくれたのは、芽美だった……」
シャツも、ズボンも、びしょ濡れになっていた。
「漫画の知識をくれたのも、仲間を集めて来てくれたのも……」
ボクは、忙しさにかまけて、大変なモノを失ってしまった。
そう思って、アパートの前まで来る。
ボクの部屋のドアの前に、誰か座っているのに気づいた。
「芽……美?」ボクは、慌てて走り出す。
薄暗い蛍光灯に照らされ、座っていたのは、芽美だった。
「お、お兄さん?」体育座りから、顔を上げる芽美。
「芽美!」
ボクは彼女の元に駆け寄って、抱きしめる。
夜の雨は尚も降り続いていた。