新たなる契約
「いやいやいやいや、大丈夫。そこに関しては、我が社に任せてくれ」
デスクに座った、宇津井さんが言った。
「でも、いいんですか。ボクらまで、ゲレンデに招待だなんて?」
ボクは、流石に悪いと思い、伺いを立てる。
「今はまだ、北海道の山で冠雪があったくらいだね。10月中旬にはなると思うんだケド、シーズン真っ盛りならともかく、その頃ならまだゲレンデもホテルも開いてるからさ。ウチが言えば、どうとでもしてくれると思うよ」
「そーでーす。夏は、漫画の制作現場、見せてもろたね。今度はワタシ、ゲレンデ案内する番ね」
グンナーさんが、胸を張る。
「グンナーは、ケガで選手生命が絶たれてからも、相変わらずスノーボードを楽しんでいるからね。明日から、北海道だろ?」
「そーね。北海道の雪、最高にスバラシイね。エクストリーム、なるケド、スノボサムライみたいに、野生の力で滑り降りるね」
「オイオイ、あんまり無茶はするなよ。我が社の契約デザイナーなんだから、ルールは守てくれ」
宇津井さんに心配される、グンナーさん。
「ワカテマース。ちゃんと入山許可、とりまーす」
グンナーさんはスウェーデン人ながら、アメリカ人のように、危険やスリルを愉しむタイプの性格だった。
エクストリームとは、決められたコースを滑るのではなく、自然のままの雪原を滑る事を言うらしい。
最もそれは、市川さんがスノボサムライ漫画を描き始めて、初めて知ったのだ。
「しかしウチも、市川さんのスノボサムライの連載で、ボードやウェアを発表できるってのも大きくてさ。ライバルに差を付けられるんだよね。こっちのが、上だよって」
「それって、ブランド力が上がってるってコトですか?」
ボクは、おもいきって聞いてみた。
「まあ、普通にスノーボードを店に並べるだけより、確実に手ごたえはあるね」
重そうな腰を椅子ごと回す、宇津井さん。
「ショップのコの話じゃ、スノボサムライが着てるウェアだ……って、お客さんが話してたりとか、ライバルのインテリ起業家のボード、下さいって言われたりとかさ」
「そ、そうですか。市川さんも、喜ぶと思います」
「いや、実は喜んでるのはウチも同じでね。これならもう一人、漫画家と契約してもいいんじゃないかって、話しになってるんだ」
「いや……もう決定事項だ、宇津井。御社の漫画家と、新たに契約を結びたい」
振り向くとそこには、社長がいた。
「社長。いらしてたんですか」
「ど、どうも、お世話になっております」
「まあ、そうかしこまらずに。それで、ウチとしてはだね。佐藤先生だったかな。彼のサッカー漫画とも、契約をしたいと思っているんだ」
昔から佐藤を知っているだけに、一流企業の社長から佐藤先生と呼ばれるのは、もの凄く違和感があった。
「はい。喜んで、お請けしたいと思います」
「それでね、キミに会ってもらいたい人がいるんだ」
社長は言った。