商業デザイナー
ボクは、大野さんたちと別れアパートに戻ると、敷いたままの布団にダイブする。
「ふう~、疲れた。でも、芽美たちの漫研も、優秀な後輩をゲットしてたんだ」
仰向けになって、汚れた天井を見ながら思った。
「これでウチの雑誌も、来年も安泰……なのか?」
少なくとも、いきなり立ち行かなくなる危険は、薄らいだ。
「さて、メールでもチャックするか……と?」
すると案の定、宇津井さんからメールが入っていた。
「ス、スゴイ。スノーボードの写真の使用許可、降りたんだ。でも……その分、経費は差し引かれるのか?」
それは、仕方のないペイオフだった。
「こっちは、女子高生の貴重な時間を、労働力にしてるんだ。複雑なボードのデザインで、彼女たちの時間を奪うなんて厳しいからな」
ボクは市川さんに連絡して、ボードの写真の使用許可が得られたコトを伝えた。
「市川さんのアシスタントをしてくれてる、田中さんにも伝えておくか?」
芽美の学校の漫研部は、独自のSNSがあり、そこに書き込めば皆に伝わる。
「お、既読になった。ん……写真を、パソコンで漫画風に加工するやり方を、教えて欲しい?」
そういえば、教えてなかった。
「明日、ボードの写真を受け取ったあと、例のファミレスにて教えます……と」
打ち込むと、萩原さんから直ぐに、返信があった。
「ええッ……ウチのマンションに、来てくださいィ?」
「そ、そりゃムリだろ? 女子高生のマンションって……」
「親もいるから、問題無い? なに考えてんだ? ……クッ!」
ボクは、マンションにお邪魔するコトになった。
翌日、寝ぼけ眼で歯を磨いていると、スマホが鳴った。
「お前、漫画の金額を値切られたんだって?」夜吸さんは、不機嫌そうだった。
「正確には、写真の提供と使用料を引かれます。こっちがムリ言ったワケですからね。そこは仕方ないかと……」
「しゃーないな。こっちの取り分も、引いておいてくれ」
「それは、いいですよ。こっちが交渉した結果……」
「お前さ、あんま良い顔すんなよ? フリーランスでやってくなら、貰うとこはちゃんと貰え。お人好しじゃ、やってけねーぞ」
「は、はい……すみません……」
ボクは、夜吸さんの言う通りだと思ったが、よくよく考えると、夜吸さんもお人好しのように思えた。
「今日はオレ、別件で行けねーケドよ。あんま足元見られんじゃねーぞ?」
夜吸さんはそれだけ言うと、スマホを一方的に切る。
「今日はオレ一人で、宇津井さんに会って、デザインを受け取らないとな」
大手スポーツ用品ショップの、運営会社のデスクで、宇津井さんは一人の外人と待っていた。
「紹介するよ。彼は、スノーボードのデザインを担当された、グンナーさんだ」
背の高い、金髪の髪と、金色の髭の男の人だった。