描きたい漫画
「正直に言えば、ボードのデザインを描くのだけで、三日くらいっかかりそうですよ、社長?」
田中さんが言った。
「だよなあ。それに、あんまり複雑に描くと、動きが消える」
「え? そうなんですか?」
「ああ。アニメでも日本のアニメは、動きのあるシーンをあえて雑に描いたりするんだ。丁寧に描き過ぎると、動いて見えないらしいよ」
「……らしいって?」「うん、受け売りなんだ。芽美が言ってた」
「でも、それで企業の人に理解してもらえるんですか?」
「残念ながら漫画って、一般人にとっては幽世(かくりよ)の世界だからなあ。なかなか理解されないんだよ」
「で、ですよねえ。それで一般企業とお仕事って、大変じゃないですか?」
「とっても、大変だよ。企業の場合しがらみとか、上下関係もあってさ。それに営利企業だと、どうしても利益のための漫画って立ち位置だからね」
「まあ、商業漫画の場合も、利益が出ないと打ち切られてしまいますが」
「ウチはまだ漫画家も少ないから、人気が無くても全部載せてるケドね」
「も、もしかして、わたしたちも、漫画を描いたら載せてもらえますか?」
「ちなみにみんなは、どんな漫画を描くの?」
「はい、実はわたし、歴女だったりします。今はアシスタントとして、市川先パイから色々学んで、来年は自分の作品を描きたいと思ってます」
田中さんは、もの凄く優等生だった。
「じ、自分は、ヴァンパイア探偵のような、本格ミステリーを……描きたくはあるのですが、あんなストーリー、自分じゃ思いつきません」
今井さんは、はっきり言った。
「でも絵は、萩原先パイからガンガン盗むんで上手くなるんで、自分の作品はそれまでにちゃんと考えて置きます」
「萩原さんはお洒落だし、洗練されてるからね。学ぶトコも多いと思うよ」
「ま……その、マンションだと、パン……なんでもないです」
今井さんは、何か言いたそうだった。
「わたしは、佐藤先生のキャラをたくさん描きました。まだモノマネですが、いずれは自分の絵を確立して、佐藤先生のような漫画家になりたいです」
やはり、池田さんの中の佐藤は、かなり脚色されていた。
「サッカーはやったコト無いし、原田先パイも描いてるから、テニスとかバスケとかで、男のコがいっぱい出て来るのを、描きたいです」
池田さんは、スポーツ漫画が描きたいようだった。
「みんな、しっかりしてるんだね。わたしも、頑張らないと!」
最後に大野先パイが、締めてくれた。