後輩は探偵?
今日、わたしのマンションに来てるのは、後輩の今井さんだけだった。
「萩原先パイ、背景上がりました」
「早いね、今井さん? ビルとか描くの、大変だったんじゃない?」
「それがですね。この間、社長に教えて貰ったテクニックを使ってみました。スマホでビルの写真撮ってきて、線画を抽出してハメ込んでみたんですよ」
「違和感ないね、器用なモンだ」
わたしと今井さんは、妙に気が合った。
「今井さんって、パソコン得意みたいだケドどうして?」
「ウチの親父が、パソコンマニアってだけですよ。必要以上に大量に作っちゃうんで、わたしも貰ってるんです」
「今井さん以外にも、貰えるの?」「ウチは兄がいますからね」
「だ、だよねえ」ちょっと、早とちりをしてしまった。
「あ、先パイも欲しいですか? 良かったら話してみましょうか?」
「あ、いいよ。そんなつもりで言ったんじゃ、無いからさ」
ホントは、そんなつもりで言ったのだ。
「寛実、ジュースとお菓子持っていきなー」
「や、やだな、お母さんったら。ちょっと待っててね」
わたしは慌てて部屋を出ると、お母さんからジュースとお菓子だけ奪い取って、部屋に帰った。
「ま、作業もひと段落付いたし、お菓子でも食べて」
「あ、いただきます」
わたしは一人っ子だから、今井さんは妹のように思えた。
「ところで、萩原先パイ……?」「ん、なに?」
わたしもポテチを一枚、口にくわえる。
「萩原先パイ、社長のコト……好きですよね?」
「ふ、ふえッ!?」思わず叫んでしまった。
「ど、どうして、そ、そんなコト……」
「だって、社長に対する態度を見てりれば、わかりますよ」
「ええ~?」わたしは、顔が熱くなって行くのを実感する。
「でも社長、今は萩原先パイと付き合ってるんですよね?」
「そ、そうだよ。いきなりなに言って……」
「でも、原田先パイって、漫画のコト一辺倒な方って聞きました」
「まあね。アイツは漫画に関しては、かなり研究してるから」
「社長と、合いますかね?」「ど、どうかな?」
「いずれ別れそうだと、思ってませんか?」
「えええ!? そ、それは本人たち次第というか……」
「考えたコトは、あるんですね?」
「ま、まあ考えたくらいは……あるかな?」
妹っぽいと思っていた後輩は、かなり詮索好きなコだった。
「今井さんって、やっぱ探偵モノとか好き」「大好物です、ハイ」
「やっぱそうだよね」
なんと言っても、『ヴァンパイア探偵』に憧れて来たコなのだ。
「ヴァンパイア探偵の主人公の探偵って、先パイのキャラデザですよね?」
「そうだケド?」「モデルは……」
「あ~もう、社長ってか、お兄さんだよ!」
「ホウホウ?」「そうやって、無神経なフリして詮索するの、辞めな」
「は~い」今井さんは、ケロッとした表情で、返事をした。