漫画の原動力
「オイ、入るぞ。お茶持ってき……」
「……ッ!!?」
次の瞬間、アタシの脚は兄貴のミゾ落ちにめり込んでいた。
「グハァッ!? ……な、なんで……お前が買って来いって……!?」
辺りに、コンビニの袋から飛び出した、ジュースやポテチが散乱する。
「タイミング、悪すぎっス!」
「オイ、原田……大丈夫かッ!!?」
「グブオゥ!!?……」
鷹詞が、床に崩れ落ちた兄貴に声をかけている間に、アタシは漫画のネームを元の引き出しにネジ込んだ。
「原田……お兄さん、コンビニでジュースとか買って来てくれたんだろ」
散らばったジュースや菓子を拾い集める、鷹詞。
「だって、あのタイミングで入ってきたら、そりゃ焦るっスよ!?」
「オレもいずれ、同じ目に遭う日が来るのだろうか……」
「いやあ、それは無いんじゃないっスかね?」
自信は無かったが、誤魔化した。
「相変わらず、お兄さんにはメチャクチャするね、原田」
「ゲッ、い、市川……どうして、ウチに!!?」
「コンビニで、原田のお兄さんにばったり会って、付いてきたんだよ。二人は何してたの? 新連載の打ち合わせ?」
「まあ、そんなところかな……」
彼氏がヘラヘラ誤魔化しているのを見ると、何故かイラッとする。
「市川さんは連載の方、大丈夫なの?」
「来月のは、こないだマンションで、お兄さんがボードのデザインをはめ込んでくれたんで、完成間近です」
「アレは、オレが投げ出したのを、萩原さんと今井さんが引き継いでくれたんだ。ほとんど、二人の仕事だろ?」
「最大の決めシーンは、お兄さんの仕事ですケドね」
彼氏が、幼稚園からの幼馴染みと話してる。
「鷹詞、萩原のマンションにも行ったんスよね?」
「そうだな。ボードのデザインをしたグンナーさんの車でな」
アタシが現実から逃げ出した日々にあった、アタシの知らない出来事だった。
「まったく、どうしちゃってるんスかね、アタシ……」
自分でさえ、おかしな反応をしていると気づく。
「なんか、思い悩んでるコトでもあるのか、芽美」
鷹詞が言った。
「なな……ないっスよ。あるとしたら、新連載についてっス!? SNSで、バカにされまくったから、見返してやりたいんスよ」
「原田、読者さんとずいぶんやり合ってたモンね。良くないよ」
「じ、自分の作品をバカにされて、黙ってられるかっス!!」
「お前、言ってたよな? 漫画家ってのは、現実世界(リアルワールド)で起きた、嫌な出来事を作品に叩きつけるんだって」
「そ、そお……っスね。ネーム、描いてみるっスか!」
その日、アタシの手に握られたシャープペンは、真っ白なコピー用紙を次々に埋めた。