芽美
『えええ!!? いきなり電話したのォ?』
『だって、その方がてっとり早いじゃん』
『だからって……」
スマホの向こうから、女子高生のかしましい声が聞こえる。
「あ……もう、朝か? ここって……」
窓に目をやると、四角い窓から、太陽のオレンジ色の光が差し込む。
「もう昼……? いや、夕方か?」
頭がズキズキ痛い。吐き気もする。
「そっか……ボクは……」
ようやく、自分がどこにいたかを思い出す。
『ちょっと……お兄さん、聞いてる? 今どこ!?』
「え……今、駅前……」
『駅前って、どこの?』「え、だから……」
コンディション最悪だったボクの脳は、拘留が長すぎて、刑事の尋問に耐えれなくなった犯人の様に、ペラペラと口に情報を喋らせた。
「ゴ、ゴメン……なんか、吐きそう!」
『ウゲ、戻さないでよ』『何やってんのよ、もう!!』
萩原さんと、山口さんの声が聞こえる。
「うぐッ!? オエェ!!」何とか手で押さえ、バスルームに駆け込んだ。
「ゲホッ、ゲホッ!! ウウエエ」その後の描写は、出来ない。
三十分……いや、一時間は風呂場で、もがき苦しんだだろうか?
こんなに酷い二日酔いなど、初めての経験だった。
「お兄さん、居る!!」「鍵開けてよね!」
ビジネスホテルのドアが、うるさく叩かれる。
「ヤ、ヤバい……どうして逃げなかったんだ、ボク……」
頭はズキズキ痛いが、周りの部屋に迷惑がかかると思い、ボクはドアを開けた。
萩原さんが、ズカズカと中に入って来た。
「ア、アレ? よく入れてくれたねえ」
「アニキに、忘れ物を届けるって言ったのよ、そんなことより」
「どうしていきなり逃げたの?」「ネット漫画雑誌も上手く行ってたのに」
萩原さんに続き、山口さんと、大野さんに詰め寄られる。
「だ、だって……キミたちに、正当な金額を払えてない」
「だから、それはいいって、言ってるじゃない」
「それに、カレーとか、ハンバーガーとかも、おごってもらってるし」
「中古のノートPCだって、貰っちゃってるわ」
「ケド、キミたちの漫画は、カレーや中古パソコン程度の価値じゃ……」
「バッカじゃないっスか?」「は、原田?」
萩原さんたち、三人の女子高生の後ろから、原田妹の声が聞こえた。
「自分で言うのも、なんっスけどね。プロでもないアタシの漫画が、そんなに価値あるワケ無いっスよ。実際、コミケに出したって、大して売れないっス……」
「は……原田……妹?」「お兄さん。アタシは芽美(めぐみ)っスよ」
「……め、芽美」ボクは、初めて彼女を名前で呼んだ。