萩原さんの手によって、ボクのパソコンが新たなケースに詰め替えられた。
「これで、よし。あ、動きましたよ、お兄さん」
「あ、ありがとう。これもう、ゲーミングパソコンだよね」
「そうですね。でも、画像編集ソフトは軽くなりますよ。CPUも換えたから、基本動作も早くなってますし」「確かに」
萩原さんの見立てとチューンナップで、パソコンでの作画作業はかなり早まった。
「で、お相手さんの企業は、SNSのサービスを始めたいんスよねえ? どんな漫画にしたいか、聞いて置いたっスか?」原田妹が指摘した。
「ああ。何個か入れてほしいポイントが、あるみたいなんだ」
「サービスの、売りっていうか、セールスポイントってヤツっすね?」
ボクは原田妹に、企業案件のメールを見せた。
「フムフム。セールスポイントは、大体四つっすか?」
「行けそう?」「ムリっス」「ええ!?」
ボクは、原田妹の即答に驚いた。
「無理ってどこがだい? どこか解り辛いポイントでも?」
「そうじゃ無いんスよ」「じゃあ、なんで・・・」
原田妹が、自分の机の方で手招きしていた。
「説明漫画の場合、一つの漫画で一つの説明をするのが理想っス」
「な、なる程。でも先方さんは、2ページで全部のポイントを、押さえて欲しいって言って来てるぞ?」
「入れれなくは無いっス」「え、じゃあ?」
「でも、入れれなくは無いっスけど、単に入れただけになるっスよ」
「単に入れただけ?」「そうっス。解んないっスかねえ?」
原田妹は、仕方ないといった感じで、A4のコピー用紙にシャープを走らせる。
「こんな感じっス」10分ほどで仕上がった。
「そっか、どれどれ?」それに目を通したが、イマイチしっくり来ない。
「う~ん。確かにポイントは全部押さえてあるんだケド、これじゃあ単に描いてあるだけで、全然SNSのサービスと利用しようとは、思えないかもな」
「そりゃそうっスよ」シャーペンを回しながら、原田妹は言った。
「これじゃあ説明書と変わんないっス。漫画を使う意味なんて無いっス」
「確かにそうだな。詰め込み過ぎて、全然頭に入ってこないよ」
「漫画には間ってモノがあるし、色んな仕掛けで読者に読ませてるっス」
「なる程なあ。こりゃ、先方さんに納得してもらうのは、骨が折れそうだ」
「まあ、相手次第っスけど」
「漫画って、けっこう低く見てくる人がいるから、イヤなのよね」
萩原さんも、嫌悪感を示した。
「で、でも、まだ先方さんが、漫画に理解を示さない人とは限らないワケだし、ボクが連絡を取ってみるよ」
その日の夜、ボクは先方の会社にメールを送った。
一時間ほどすると、先方からスマホに電話がかかってきた。
結果は、予想以上に酷いものだった。