女子高生・ご立腹
「オ~イオイオイオイッ!!」
女子高生が一人、高校の机につっぷして泣いていた。
「原田さあ、もう少し上品に泣けないのか? ホラ、鼻水」
「ら、らって、萩原……萩原ァ!」「うわッ! 抱きつこうとすんな!」
萩原に、『チーーン』と鼻をかんでもうらう、原田妹。
「それにしても、酷いよね、お兄さん。いきなり逃げ出すだなんて!」
「そ、そおなんらよ、萩原ァ!」「解ったから、落ち着こう、な」
するとそこに、山口と大野もやって来た。
「やっぱ、荒れてんな。原田」「そりゃ、ショックだよね」
二人は、原田妹の前の席に座って、ペットをあやすように頭をなでる。
「でも、なんだっていきなり、逃げ出したのかな?」
「ネット漫画雑誌も、上手く行ってたのに。ホラ」
オカッパ頭の大野は、自分のスマホ画面を、萩原に見せる。
「うわ! 反響、けっこう来てるじゃん」
「とくに、市川さんのスノボ漫画が、伸びてるね」
「そっか。ハワイでサムライがスノボって、話題性に事欠かないもんね」
「そういやアンタ、IT企業の漫画、描いてるの?」
「そりゃ描いてるよ。ネームはコイツに手伝って貰ったケド」
「手伝うっていうか、殆ど原田が描いてたよね」
山口が、メガネの弦をクイッと上げながら指摘する。
「う、うるさい。でも10ページなんて大作、描いたコトもないから」
「もう、描かなくていいんじゃないっスか?」
原田妹が、顔を上げないまま言った。
「アンタねえ。ほんとにそれでいいと思ってんの?」
「いいも何も、お兄さんがいなくちゃ、マンガもアップできないっス」
原田妹の正論に、萩原が口を開く。
「わたしが少し勉強すれば、アップの仕方くらいなら解るかもだケド」
「でも、企業との付き合いとか、どうするっスか?」
すると今度は、山口が名乗りを上げる。
「そうね。企業とのやりとりなら、わたしが何とかしてみようか?」
それに対し、萩原がキレイな顔を崩しながら言った。
「でも相手は、あの嫌味な仲介業者だよ?」「そ、そうね。こうして考えるとお兄さん、けっこう大変だったのかも……」
「だからって……逃げ出すなんて、軟弱者っスよ」
「そうだね。フン捕まえて、文句の一つでも言ってやらないと、気が済まないよ」
萩原も、スマホを取り出した。
「どこ、連絡すんの?」「市川さん。あ、あとイリヤにも」
「フランスに連絡して、意味あんの?」山口が言った。
「だって、人数多い方がいいじゃん。お兄さんの居場所も解らないんだし」
「そ、そうね。まずは学校終わったら、アパートに行ってみる?」
「今朝寄ったら、鍵がかかってて、もぬけの殻だったっスよ?」
「でも、大家さんに聞いてみるとかあるでしょ?」
「捜索願いとか、出してみる?」
「でも、身内でもないんだし、受理されるかなあ?」
山口も、萩原も、中々良い案が浮かばない。
「ねえ、繋がったよ?」童顔の大野が、スマホ片手に言った。
「だから誰に? イリヤ?」山口が、面倒臭そうに返す。
「そうじゃなくて……お兄さん」「……え?」
一同は、唖然とした。