報告会
実は、単なるホームページに過ぎない、ネット漫画雑誌ではあったが、雑誌の相乗効果は確実に存在した。
一つの漫画のファンが、他の漫画も読み、さらに多くのファンを獲得したのだ。
「とくに、佐藤のサッカー漫画の勢いが、凄まじいな。元々少年誌と銘打ってはいるし、美形キャラをガンガン出したのが、功を奏したか」
ボクは、体調不良だった芽美以外をファミレスに集め、報告会を行っていた。
「オエエッ! な、何か、喰う気が起きん!!」
佐藤は相変わらず、プレッシャーに弱かった。
「いやあ、でもお兄さんのお友達、凄いですよね。いきなりこんな人気漫画を描いちゃうなんて。わたしの漫画、一瞬で抜かれちゃいました」
市川さんが、少し悔しそうに言った。
「でも、市川さんのサムライスノボ漫画も、ずっと人気一位だったし、今も二位をキープしてるじゃないですか。凄いですよ」
山口さんが、コーヒーを口に運びながら言った。
「いえいえ。山口さんの、ファンタジー世界での株の漫画も、アイデアが凄いと思いました。コア人気で、固定客が付いてるのって、凄いですよ」
市川さんと、山口さんは、近所のおばちゃんみたいに、お互いを褒め合っていた。
「実は、山口さんの漫画、スポンサー契約を結びたいって、証券会社から連絡があるんだよね? ま、仲介は夜吸さんなんだケド……どうする?」
「内容次第ですね。あまり束縛されてしまったら、漫画の持ち味が無くなってしまいますから」
山口さんは、やはり慎重だった。
「でもでも、イリヤさんの漫画も、かなり人気が上がって来たよね。ウサギのコも可愛いし、海外の人独特の絵柄と世界観があって、わたしは好きかな?」
大野さんが、等身大の読者の意見を言った。
「そっか。どうもオレには、守備範囲外なんだケド、色んな感性があるんだな」
ボクも、コーヒーを口に運んでいると、浮かない顔の女子高生が目に入った。
「どうしたんだ、萩原さん。元気が無いみたいだケド……?」
ボクは、IT漫画を描いて以来、新作を描かない萩原さんを心配していた。
「そ、それが、スランプでさ。なんか、いいアイデアが、浮かばないっていうか」
萩原さんは、かなり焦った顔になっていた。
「ええ? 元々、いいアイデアなんて、浮かんで無いじゃん。IT漫画も、原田かネーム描いてたし」
大野さんは、純粋なまでに空気が読めない、残念なコだった。
「うッ……うっさい、大野! 漫画も描いてないクセに!」
萩原さんの焦りは、かなり深刻に見える。
「そうなんだよね。アタシだけ漫画、描いてないのってイヤじゃん。だから……描いてはみたんだ。四コマだケド」
大野さんは、申し訳なさそうに、コピー用紙に描いたネームを出した。
「ど、どれどれ? うん、『日常系』なんだね?」
「ね、猫カフェの看板娘の姉妹のお話なんだ。猫好きな妹と、猫アレルギーなお姉ちゃんがね……」
大野さんは、楽しそうにストーリーを話し始める。
会計も終わり、みんなと別れた後、近所の公園の前を通り過ぎようとした時、ボクの腕が引っ張られた。
「……お、お兄さん。ちょっと、相談に乗ってくれないかなあ?」
ボクの腕を掴んだのは、萩原さんだった。