ファンタジーと株式
「うおお、なんかSNSに、オレの漫画のキャラ絵が投稿されてっぞ?」
「い、いきなりかよ。確かに女性受けを狙ってはみたが」
佐藤もボクも、予想外の反応にたじろいでいると、スマホに連絡があった。
「山口さんからだ。なんだろう?」「山口さんって、あのメガネのコだろ?」
「ああ、どうやら彼女も、漫画を描いていたみたいだ」「へ~」
ボクは指定された、名古屋発祥の喫茶店に行くと、山口さんが待っていた。
「これが原稿です。一応、原田からはチェックして貰ってるんだケド、どうかな?」
オーソドックスな茶色の封筒から原稿を取り出し、読んでみる。
「ファンタジー舞台の、株式のお話か?」
「幻想世界でも、定番のミスリルだとかオリハルコンって、相場とかありそうじゃないですか? そこを掘ってみようかと思ったんです」
山口さんらしい角度から、描かれた作品だと思った。
「異世界ファンタジーも、戦争がある無しや、魔王が討伐されたかどうかで、武器屋や防具屋、金属加工業者の株価が変動するのか?」
「ファンタジー世界にも、経済あれば、物の価値や価格の変動もあると思うし、ギルドなんか株式でも面白いと思いました」
「山口さんって、株に興味があるの?」
「株だけではなく、FX、仮想通貨、不動産にも、興味はありますね。OKがもらえれば、ブログとも連帯させたいって思ってます」
「うん。これだけ描けてれば、いいと思うよ。さっそく、文字入れをしないと」
「それからお兄さん。税金とか、企業とのお金や発注のやりとりは、大丈夫ですか?」
「いや……それが、全然」「はあ、やっぱり」「色々と、雑務に追われちゃって」
「なら、わたしが会計をやりましょうか?」「え、いいの?」
「領収書や納品伝票は、最低月ごとに、まとめておいてください。あと、経費で落とせそうなモノは、領収書を絶対に貰ってください」
「う……うん、解った」税金関係が気になってたボクは、少しホッとした。
「あと、これイリヤから伝言です。例の『バニー星人がアイスクリーム屋を買収する漫画』が完成したので、パソコンに送るって言ってました」
「そうか、これでまた、連載作品が増えるんだな」
有難い事ではあったが、作品全ての文字入れを担当しているボクは、直ぐにボロアパートへと帰宅した。
パソコンで、デジタル入稿された原稿を受け取る。
「まずは、イリヤの作品チェックをするか? どれどれ……」
「なんか、かなりシュールな話だな。流石はフランス人だ」
家に帰らないまま、自分の作品を描いていた佐藤が言った。
「でもこれ、面白いか?」ボクは少し不安になる。
「オレは面白いと思うが?」「そ、そうか?」
イリヤの漫画は、投稿当初はそれ程の反応も無かったものの、口コミで徐々に人気を得て行った。
山口さんの漫画は、コア人気と、今まで少なかった大人の読者層を獲得する。
佐藤と、市川さんの漫画も好調をキープし、ネット漫画雑誌の読者は、相当数に及んだ。