納品
一週間後、萩原さんが描いた10ページにも及ぶ企業漫画が、完成した。
「ま、まさか、余裕で間に合うとはな?」
ボクも含め、全員が予想外だった。
「イリア氏がフランスで、仲間を募って分業してくれたおかげっスね」
「で、どうかな? これで出して大丈夫そう?」
萩原さんは、自分の漫画の出来栄えが心配の様だった。
「たぶん、大丈夫じゃないかな?」「きっとだいじょうぶっスよ」
「だからとか、きっととか、付けないでよね」
萩原さんは不満そうだったが、実際に企業から漫画を依頼され、仕上げたのは初めてだったので、ボクにも芽美にも、解らなかった。
「それじゃ、夜吸さんに連絡を取ってみるよ」
ボクは夜吸氏に連絡を取り、もう一度納品方法を聞いた。
「まあ納品は、デジタルデータをネットで送るだけだからね」
結局、その日はそれだけだった。
夜吸さんにしても、企業からの連絡待ち状態であり、企業側も判断は複数の人間によって行われるため、時間がかかりそうだった。
「なんか、デジタルの納品って、あっけないね?」
萩原さんは、自分が経験した苦労の大きさから、そう思うのだろう。
「でも、これでやっと、自分の漫画に集中できるっス」
「あ、わたしも、サムライスノボ漫画、今月は10ページ行けそうです」
市川さんも、自分の漫画を進めてくれていた。
「なッ、こないだ来なかったのは、そのせいだったっスか?」
「アレは、塾とかだよ。またテストで、悪い点取れないでしょ」
「し、しかし、ほぼ一人で10ページっスか?」「少しは慣れたのかな?」
「そうだね。一ヵ月で10ページは凄いよ。漫画にかかりきりでもないのに」
「そういえば、イリヤも漫画を連載したいって、言ってましたよ」
「そっか。向こうでも描き続けてたんだ」
「確かに、キャラも背景も、かなり上手くなってたよ」
イリヤに手伝ってもらった、萩原さんも関心していた。
「そりゃ、ウチとしては大歓迎だケド、日本語になっちゃうよ?」
「それより、ストーリーはできてるんスか?」
「それなんだケド、わたしが『ハワイでスノボをサムライがやる漫画』ができた時のコトを伝えたら、さっそく真似し始めちゃって」
「ああ、鉛筆転がしっスね。それで運命は、どんな話を選んだっスか?」
「バニー星から来たバニー星人が、地球のアイスクリームに感銘を受けて、株式投資で得た資金でアイスクリーム店を買収するお話だって」
「また、なんともカオスなストーリーだなあ?」
「でも、企業漫画として見ても、アイスクリーム屋と、株式関連が行けそうですよ」
山口さんが、冷静に指摘する。
「た、確かにそうだケド……」
ボクは、大きなため息を吐いた。