締め切り
次の日、市川さん以外の女子高生全員が、ボクのボロアパートに集合してくれた。
「キ、キミたちが、怒っていることは解っている。これからボクが、こっ酷く叱られるのも、重々承知の上だ。だけど、聞いて欲しい……」
「そんなヒマはないっス」「そ、そこを、なんとか……」
「だ・か・ら、そんなヒマは無いって言ってるでしょ?」
ボクはさっそく、芽美と萩原さんに怒られた。
「お兄さん、IT企業漫画の締め切り、一週間後なんですよ?」
「な、なんだってェ!!?」
「なんだってェじゃなあいっス!! 誰のせいだと思ってるっスか!?」
「ス、スマン。で、進行状況は?」
「まだ、完成はゼロページ。キャラの下書きだけ描いたのが5ページ……真っ白なのが5ページ……」
「つ、つまり?」「このままじゃ、絶対にムリっス」
「お、落とすってヤツ? こ、こっちから、ページの増加を打診しちゃってて、それはマズいだろう?」
「この忙しいのに、逃避行を決めておいて、よく言えるわね」
「め、面目ない……萩原さん」
「とりあえず、人手が欲しいわ。お兄さんにも、背景や文字入れをガンガンやってもらうから」
「こりゃ知り合いにも、声かけた方が良いかもっス。お兄さん、誰か知り合いで絵が描ける人、いないっスか?」
「そうだなあ、佐藤くらいだケド……アイツ、どうしてんのかな?」
とりあえず、メールやらSNSで連絡を入れてみたものの、返事は無かった。
「こっちもダメね。流石に一般人には、ハードルが高いか」
「大学に行った先輩も、やっぱムリだって」
山口さんや大野さんは、知り合いに絵描きは少なかった。
「と、とにかく今は、自分らでやれるだけやるっス」
「そ、そうだな。今回の漫画はデジタルだし、分業を進めよう」
ボクと芽美は、みんなを取り仕切る役に回った。
「まず山口は、真っ白なのに枠線を入れるっス」
「で、でもどうやんのよ? デジタルなんて、触ってないよ」
優等生と評判の山口さんでも、デジタルは苦手のようだ。
「それなら、オレが教えるよ。まずは、線の太さを調整して、それからシフトを押しながらこうで、まっすぐな線画引けるんだ」
「な、なる程。わかった、やってみる」優等生は、呑み込みが早かった。
「わ、わたしは何、やろっか?」
「大野は、とにかくベタやトーンを貼りまくるっス。あと、ゴミ取りもっス」
「でも、やり方……」「お兄さん、こっちっス!!」「はいいィ!!」
「おわああああ、ど、どうしよう。ハデにはみ出しちゃった」
「落ち着いて、大野さん。デジタルでの作業はやり直せるんだ。ほらね」
「ホントだ。元に戻ったぁ」
「たぶんこのヘンの線が切れてるんだよ。それで、ベタがはみ出したんだ」
「あ、切れてる」「あと、ベタ塗りするなら、レイヤーも分けた方がいい」
「レ、レイヤー? 髪の毛の?」「か、髪の毛?」
「違うっスよ。ここで言うレイヤーは、アニメのセル画みたいなモンっス」
「セル画って、何?」「セル画を知らないっスか? まったく、キョウビの若いモンはっス」
作業は、遅くにまで及んだ。