二つのサッカー漫画
グンナーさんは、緻密なデザインもこなす、プロのデザイナーである。
グンナーさん的には、もっと上手く簡単に描けると思ったのだろう。
「な、なんかグンナーさん、めっちゃ落ち込んでない!?」
大野さんが言った。
「シッ、このコは思ったコト、直ぐ口にしちゃうんだから!」
山口さんに口を塞がれる、大野さん。
「ど、どうしてデ~スか……? こんなグニャグニャの線しか、描けないなんて」
「Gペンは慣れが必要ですからね。それに、日本のマンガの絵って独特ですから」
日本独特のアニメ絵や漫画の絵は、解剖学的な人物の描き方を学んだ人にとっては、かなり独特で描きずらいと思われる。
「こんなに目が大きいのも、おかしいデ~ス。でも、これでキャラとしてバランス取ってるのが、信じられナ~イ!」
グンナーさんは、少し混乱もしていた。
「えっと、とりあえず画像を加工してみました。見てもらえますか?」
「わ、わかりまシ~タ」肩を落としたグンナーさんが、ボクの背中に来た。
「な、なる程。雑誌の止めた写真のようにするとは、こういうことデ~スか」
「漫画って、『絵の説得力』が重要なんですよ。ゴチャゴチャと色々描くより、一枚絵の迫力で押し切れる場合もあるんです」
「場合によっては、そちらの方がページを節約できる場合すらあるんですよ」
市川さんが、ボクの意見を補足する。
「そ、そうなの?」「はい、そうです。原田も言ってましたよ」
「そっか、芽美が言ってたのか……」
ボクの漫画の知識は、ほぼ芽美から教わったモノだった。
「ねえ、お兄さん。ちょっと……」
ボクは、山口さんに手招きされる。
「最近、ネットでの芽美の漫画の評価、見てますか?」
「え? 最近忙しくて見れてないんだ、ゴメン!」
「コレなんですケド……」山口さんは、スマホを見せる。
「こ、これって!?」そこには、酷い評価が並んでいた。
「ど、どういうコトだ? 芽美の漫画って、ここまで酷い評価が上がる出来じゃ……」
けれども、理由は直ぐに理解できた。
「さ、佐藤のサッカー漫画と……比較されてる!?」「そうなんです……」
山口さんは、小さく頷く。
「実際、佐藤先生の漫画って、女性にはキャラ人気がスゴイですし、サッカーにうるさい男性にも大人気なんですよ」
「話が軽い……、サッカーを知らない、キャラが雑で無機質……」
確かにギャグ要素もいれた芽美の漫画は、サッカー漫画として比較されてしまうと、とても部が悪かった。
「佐藤の漫画は、実際のサッカー選手をかなりアレンジして出してる。それだけでも個性になるし、お互いに絡めば話なんて幾らでも作れる」
ボクは、芽美から連絡があったのに、返信もせずにいたコトを思い出した。
「芽美……」
ボクの足は、萩原さんのマンションの玄関へと向かう。
「ス、スミマセン、グンナーさん。オレ、用事を思い出したんで、帰ります!」
返事も聞かないまま、原田の家へと走っていた。