学校のような存在
「あ……あの、晃さん。ウチはこ通り、ボロアパートなんで、そんなに見るべき
ところも……」
すると晃さんは、ボクの机の上にあった原稿用紙を眺めていた。
「この絵……もの凄く上手いですよね? でも、こんな絵柄の漫画、ネット漫画雑誌には載ってませんでした」
「ああ、それは兼ちー……じゃなくて、森兼 明人の漫画です。まだ、表紙絵だけですケド」
「森兼さん……新しい漫画家さんですか?」
「ええ、その予定なんですケド、著しく気まぐれなヤツでして……」
「著しくなんて、生易しいっス。性格は、ひねくれまくってて、ゴミっス!」
かつて兼ちーと、差別についてもめた芽美が、息巻く。
「そう言えば、お前はなんでウチに来てんだ?」
「とーぜん、新連載の一話目が完成したんスよ」
「そっか、どれどれ?」
芽美から、いきなり十数ページの原稿用紙を渡された。
「うん、まずは物語の導入部分か? 前のサッカー漫画より、キャラが厚いっていうか、深みがある感じがするな」
「そうっスか? キャラが漫画やアニメっぽいとか、前の連載じゃ散々言われたんで、何とか直してみたんスよ」
「あの……わたしにも原稿、見せてもらってもいいでしょうか?」
晃さんが、背中から覗き込んできた。
「いいですケド……いいよな、芽美?」
「まあ、別に構わないっス……」
構わないと言いつつ、不満気な芽美。
「……この漫画って、主人公がネット漫画雑誌を立ち上げようとしている、お話なんですね。面白いし、参考になります」
「ま、まあ少しは見る目があるみたいっスね。ところで鷹詞。この女のデザイン事務所とは、どんな契約を結んだんスか?」
「この女じゃなくて、晃さんな。実は……」
ボクは、サッカークラブからデザイン事務所に至るまでの経緯を、芽美に話した。
「ど、どーしてそうなるんスか? まず、サッカークラブにウチの佐藤先生の漫画を、無償で貸し出す意味が解らないっス! それにサッカークラブが、漫画連載を始めようとしてるんスよね?」
「ああ……そうだよ」
「それって、完全にライバルじゃないっスか?」
「でも、面白そうじゃないか? サッカークラブが、漫画部門を持つんだぜ」
「そんなに簡単に行くとは思えないっスケド、上手く行ったらウチの漫画家を抜かれちゃうっスよ?」
「でもさ。漫画家が必要とされる場所は、増えるワケだろ?」
「そりゃそうっスケド……鷹詞は、それでいいんスか?」
「そうだな……」
ボクは、かつて心に誓った決意を、初めて打ち明ける。
「ボクのネット漫画雑誌は、学校みたいな感じで良いと思ってる」