カネちー
「テメー、なに勝手に人の部屋入ってんだ!?」
乱暴なモノ言いの男が、部屋にいた。
仕方なく男の部屋へと入り、コンビニで買ったコーラとポテチを広げる。
「聞いてんのか、オラ!? だから、なに人の部屋入ってんだよ!? 夜吸から連絡あったケドよ。アイツの嫌がらせか?」
「まあ、そんなトコかな。実はオレ、ネット漫画雑誌を始めてさ。これが、ことのほか上手くいってんだわ」
「な、なんだよ……テメーの自慢話なら、家かネットでやってろ!?」
森兼 明人は、かなり精神的に荒れていた。
「あ、カネちーも、この漫画読んでるっすか?」
芽美が、床に転がっていたコミックスを拾い、読み始める。
「お、おう……って、勝手に読んでんじゃねえ。それになんだよ、カネちーって。もっとマシなあだ名で呼びやがれ!?」
「ところでカネちーは、どんな漫画描いてんだ?」
ボクはサラッと問いかける。
「はあ? ヤッくんに聞かなかったのか? 1ページも描いてねーよ」
「それは、企業漫画の話だろ? 賞に応募するとかで、描いてる漫画とか無いの?」
「あ、あるケド……それが、なんだってんだよ?」
「見せてくれ」「イヤだよ!!」
「どこにあるんだ?」「だ、誰が教えるかってんだ!?」
森兼 明人は、一瞬目をそらす。
「仕方ないなあ。まあ、ポテチでも食えよ」
「フン……じゃあ、部屋に上がり込んだ代金として、喰ってやるよ」
カネちーは、ペン立てに刺してあった割り箸で、ポテチをつまむ。
「鷹詞、あったっスよ。原稿!!」
芽美は机の引き出しから、漫画原稿を取り出した。
「おわああッ!!? な、なに勝手に見てんだよ!?」
「ゲゲ……作画、めっちゃ上手いっス!!?」
「だから、勝手に見んな?」カネちーは、芽美から原稿を取り上げた。
「それだけ書けて、なんで企業漫画が描けなかったんだ?」
「フ……それは、オレが描くに値しないと、判断したからだ」
「自分で描くと言っておいて、それは嘘だろう?」
「プレッシャーに、負けたっスね?」
「う、うるさい! ケンカ売ってんのか!?」
「でも、作画はかなりのもんだぞ?」
「問題は内容っスね。作画レベルが高いと、内容も高いレベルを要求されがちっスから……」
「まあ、そんなトコだ。お前らの雑誌も、ヴァンパイア探偵とかまあまあ作画レベルが高いヤツもいるが、オレに言わせればまだまだだね」
「ウチのネット漫画雑誌を知ってるっスか?」
「ああ、知ってるぜ。こないだ打ち切りになった、クソつまんねーサッカー漫画描いてたの、お前じゃね?」
「んな!? そ、その嫌味な口調……まさかSNSで、アタシの漫画を散々コケにした、陰気陰険性格壊滅ヤロウってっス!!?」
「ああ……オレだよ」
カネちーは、堂々と胸を張った。