スパルタ教育
「ホラ、言わんこっちゃ無いっス! こんなの完全にライバルを、育てているようなモンじゃないっスか!?」
「まあ、業務提携先でもあるんだし、そうとも言い切れんだろ?」
「会社の規模にしたって、ウチとは全然違うんじゃ無いっすか?」
「そりゃそうなんだケド……でも、サッカークラブが漫画部門を作ってくれれば、漫画を描ける人間が、夢を叶える可能性が高まるのも事実だろ?」
「は~、アタシの彼氏は、どうしてこうもお人好しっスか!?」
「なる程……そう言うコトでしたか?」
晃さんが、一人で納得していた。
「なにが、なる程っスか?」
「いえ……あなたのネット漫画雑誌に、優秀な漫画家が集まった理由が、何となくわかった気がします」
「ボクのネット漫画雑誌に……人が集まった理由? 偶然じゃなくて?」
「鷹詞も鈍いっスね!」
「わたしも、漫画については素人です。これからも、色々と学ばせて下さい」
「はあ? 漫画を舐めてるっスか? 今日中にでも、基本くらいは叩き込まないと、ロクな漫画家しか集まらないっスよ?」
「オ、オイ、芽美!?」
「協力してやろうって言ってるんスよ……どんな基準で漫画家を選考するかも解らない、どうやって契約した漫画家と付き合うのかも、解ってないっスよね?」
「ハ、ハイ……確かに、その通りです」
晃さんは、年下の芽美相手でも、丁寧な口調となっていた。
「大手の漫画出版社ほど、ノウハウは無いですケド、ウチで良かったら色々と教えますよ」
「ちょっとー、鷹詞は、甘々っス!?」
「まあそんなに目くじらを立てなくても……芽美、色々教えてやってくれ」
「まったく……仕方ないから、教えるは教えるっスけど、スパルタっスよ!」
「ハイ、覚悟はできてます!」
晃さんは、体育会系のノリで答えた。
「それじゃあまず、基本中の基本……面白い漫画とは、何かからっス!」
「それが判れば、誰も苦労は……」
「そこ、口出ししないっス! 教えるのは、アタシなんスよ」
芽美は、熱く漫画についての知識を、晃さんに語る。
「スマンが、オレたちはそろそろ帰るわ。もう時間も時間だしな」
佐藤が言った。
「オー、ではお二人は、わたしの車で帰るね。晃さん、だいじょうぶね?」
「はい、わたしはまだ残って、漫画の知識を身につけねばなりませんから」
晃さんは、真面目で熱心だった。
「グンナーさん。今日は、本当にお世話になりました」
「水臭いコト、言わないね。それじゃね」
佐藤と池田さんを乗せた車は、夕闇の空の下を、赤いテールランプを靡かせながら走り去る。
ボクのアパートには、二人の女性が残された。