残暑を乗り切るハンバーグ
海から帰ると、再び忙しい日々が待っていた。
芽美と付き合い始めたボクはファミレスで、彼女の新たな連載を共に考える。
「どんなのが良いっスかねえ、鷹詞?」
「なにか、ため込んであるアイデアとか無いのか?」
「あるにはあるんすケドね。正直、今回の件で思い知らせたっスよ?」
「何を?」
「やっぱ少年漫画って、リアリティというか、なんかそういうのが大事なんだろうなって思ったっス」
「サッカーなんかとくにそうだケド、実際にサッカーをやってたり、昔やってたヤツらが読むワケだからな」
「でも、リアリティが重要なのは解かるんスけど、リアルに描けるかって言われると、中々厳しいっスよ?」
「まあな。とりあえずこの『残暑を乗り切るハンバーグ』でも、頼むか?」
「鷹詞、夏バテっすか?」「いやあ、午前中打ち合わせだったからね」
午前中は、グンナーさんと市川さんを交えて、漫画のカラータイトル表紙の作成会議を開いていた。
「グンナーさんって、あれからかなり、Gペンとかの練習をしたみたいなんだケドさ。けっきょく、上手くは描けなかったみたいで、実はまだ落ち込んでるんだ」
「スウェーデン人の190センチの男の人っスよね? 手が大き過ぎて、厳しいのかも知れないっスね」
「確かに、バスケでも身長が高すぎると、フリースローが苦手って選手もいるからな」
「バスケっすか? バスケ漫画とか、どうっスかねえ?」
「芽美、バスケは詳しいの?」「ぜんぜんっスね」
「芽美、漫画やアニメの他に、なにが詳しいんだっけ?」
「漫画やアニメが詳しいだけで、他は大して詳しくないっス」
「それって、マズくないか? 今の時代、何かと専門性が求められるぞ?」
「マズイっすね。漫画を描く以上、その分野くらい詳しくないとダメなんスよ!!」
「だから言ったでしょ。漫画って、頭良くないと描けないのよ?」
前の席に座った、山口さんが言った。
「それ、初耳だケド、芽美言われてんの?」「ま、まあっス」
「勉強をおろそかにするから、漫画の引き出しが少なくなるのよ」
「う、うっさい。漫画は、勢いで描くモノ……って、前は反発してたっスけど、やっぱ勉強も必要なんスかねえ?」
「そうだなあ。知識の引き出しや、応用の幅は広がるかもな?」
元Fラン大生が、偉そうに言ってみる。
「でも、勉強だけじゃなくてさ。ファッションとか、パソコンとか、色んなモノに興味を持つべきだと、わたしは思うよ」
「萩原に言われても、どうなんスかね? 鷹詞に、原作描いてもらってるし」
「でも、二人の意見も、一理あるかもな?」「ふえ?」
「そうだなあ。いったん漫画を離れて、他のコトをやってみるのはどうだ?」
「た、鷹詞、意外にスパルタっす!!?」