原価中
「でもっスね。ウチのネット漫画雑誌のメンバー、全員そろってないっスか?」
ファミレスに、一堂に会する漫画家やアシスタントたち。
「フランスにいるイリアを除いけば、全員だね」
萩原さんが言った。
「そっか。最初に声をかけたのが芽美で、そっから萩原さん、山口さん、大野さんが呼ばれて来てくれたんだ」
「そおっスね。んで、あたしが声をかけたのが市川とイリアだったっス」
「わたしとイリアは別の高校なのに、原田に呼んでもらえたから、今こうしていられるんです」
市川さんは、芽美に抱きつく。
「そのあとに、佐藤先生が堂々のデビューをされたんですよね?」
うれしそうな池田さん。
「それで今年に入って、田中さん、今井さん、池田さんが入ってきて、わたしが抜けたのね……」
山口さんが言った。
「あ……一人、忘れてた……」
「鷹詞……思い出さなくて、いいっスよ。むしろ、無かったコトにするっス」
芽美が言ったのは、森兼 明人のコトだった。
「あー、ちなみにだが、居るぜ。オレが呼んどいた」
夜吸さんが、サラリと言った。
「え、居るってどこに……?」
ボクは席を立って、二~三歩歩くと、大型席の反対側のソファに、顔をメニューで隠した兼ちーが座っていた。
「ふ……ふざけんな、ヤッくん!? オ、オレがこんな、リア充どもとどうして同席せにゃならんのだ!!?」
自室とは、まるで別の環境に、パニクる兼ちー。
「おー、あなたが兼ちーさんですか? 初めまして、佐藤です」
女子高生の群れから、逃げるように佐藤が、兼ちーの前の席へと座った。
「アレ? ドリンクバーだけですか?」
敬語を使う佐藤。
兼ちーは、夜吸いさんの友人であり、ボクたちよりもだいぶ年上なのだ。
「だったらどうした? 山盛りポテトフライはさっき、喰っちまっただけだ」
「相変わらず、カロリーガン無視で、コスパだけで選ぶな、お前?」
「うっせーな、ヤッっくんは、人妻の手料理でも食ってろ」
「でもジュースなんて、原価はかなり安いんですよ。コスパがいいかは……」
佐藤が、うんちくを披露する。
「あ? この世の中もモンが、原価しかかかってねーワケねーだろ。バカか、お前」
メニューの向こうから眼を出し、佐藤を睨みつける兼ちー。
「『原価中』っているよなあ? ジュースの原価は安いだの。そいつらの頭ン中じゃ、人件費も、輸送費も、製造コストも、一切かからないんだから、笑っちまうよなあ?」
「ひいいぃい!?」
ボクにしがみ付く佐藤先生。
「そんなコト言やあ、車だって原価しか見なけりゃ、もの凄いぼったくりじゃねえか……鉄やゴムやガラスなんだからよお?」
兼ちーは、相変わらず兼ちーだった。