ブスに人権なし
「あ、あんまりだぁ~~!!?」
佐藤先生は、兼ちーの刃のように危険な言葉のナイフで、深手を負った。
「な、泣かないで下さいよォ、佐藤先生!」
池田さんが、必死になぐさめる。
「あいッかわらず、イヤミなやつっスね!?」
今度は芽美が、兼ちーの前に立ちはだかった。
「なんだ、ブス?」
森兼 明人は、ファミレスの窓の外を見ながら呟く。
「……だ、誰がブス……で、でもここで答えたらっス!?」
つまり兼ちーは、芽美に背を向けてるのだ。
芽美は、その手には乗るまいと気持ちを落ち着かせる。
「言うよな……ブスに人権なしって……」
兼ちーは、それを口にした。
「……んなッ!?」
森兼 明人の言葉に、その場の誰もが凍り付く。
「はあ? 言わねーっスよ! 黙って聞いてりゃ、人権侵害もはなはだしいっス!!」
「あ~そうかあ?」
背を向けたまま、ガラスに映った芽美と会話する兼ちー。
「だったらお前、ブスも美人も同じ人権が与えられてるって思ってるのか?」
「そ、そりゃそうっスよ……」
「ブスも美人も、世の中で同じように扱われている……と?」
「え? そ、それは……その……っス!?」
「世の中のヤツが並べ立ててんのは、しょせんは建前だぜ。現実には、しっかりと差別されてんだろうがよォ?」
「う……うう……!!?」
「何なら、聞いてみたらどうだ? そのヘンの野郎によォ?」
兼ちーの左手が、ボクそ指さした。
「男ってのはよォ。ブスも美人も、ちゃ~んと平等に扱ってんのかって、周りにいる男共に聞いてみやがれ!!」
(※本当に聞いては、いけません)
ボクは、咄嗟に顔を逸らす。
……逸らした。
逸らしてしまった。
そりゃ、逸らすってもんだろうがよォ!!
「た、鷹詞はどう思ってるんスか?」
「お兄さん、どうなんです?」
「え……二人とも、カワイイよ?」
「それ、ぜんぜん答えになって無いよ!!」
「確かに世の中には、森兼さんの言う差別は平然とあるようね……」
「萩原さん、山口さん、二人とも目がこわい……!!?」
「女の子を見た目で判断するなんて、サイテー」
「ところで……佐藤先生はどうなんです?」
「ひぃぃぃぃぃ!!?」
その日、ボクや佐藤は、集まった女子高生たちに聞かれ続けた。
それはもう、しつこいくらいに何度も何度も。
けっきょく彼女たちは、まったく納得してもくれずに、ボクと佐藤が積み上げて来た信用は、脆くも崩れ去った。
「兼ちー、混乱の間に逃げやがったな……」
「なんでお前、あんなのと契約したんだよ!!?」
「ス……スマン!!?」
ボクは、とんでもない爆弾と契約してしまった事を、後悔した。