猫カフェ漫画
山口さんが、ボクのネット漫画雑誌を去ってから、一週間が経過した。
「ど、どうでしょうか、お兄さん?」
ファミレスの席から身を乗り出して、迫る大野さん。
「うん。キャラはカワイイし、背景も頑張ったね。話もほのぼのとして、温かみがあっていいと思うよ」
ボクは大野さんから、はじめて漫画の原稿を受け取った。
「ウチの雑誌には無かった、日常系の4コマ漫画だ。読者がどんな反応をするのか解らないケド、楽しみだ」
「は、はい」大野さんは、達成感のある笑顔を見せる。
「ムムム……猫カフェ美人姉妹漫画とは、大野もやるっスねえ?」
大野さんの隣に座っていた、芽美が眉間にシワを寄せた。
「芽美の方は、順調なのか?」
「そ、それがっスねえ……あの時は勢いで行けるって思ったっスけど、いざネームにしてみると、どうかと……」
ボクは、芽美からネームやキャラデザを受け取った。
「う~ん、芽美の絵柄だと、ネット漫画雑誌を立ち上げるリアリティってか、そういうのが描けて無い気がする」
「クゥ……ずいぶんと痛いトコ突くようになったっスね」
芽美は、ボクをギロっとにらんだ。
「確かにそうなんスよ。どうも、キャラに実体感が無いっていうか、ストーリーが上手く流れないっていうか……」
「言われるとストーリーにも、エンターテイメント性が無いよな。単にストーリーが進むだけじゃ、読者は付いてこない」
「そおっスねえ。キャラも展開も、イマイチな気がしてきたっス」
「これ……つまんない」
芽美のネームを読んでいた、大野さんが言った。
「グハッ!? ま、まさか大野に言われるなんてっス……」
さすがの芽美も、意気消沈する。
「正直に言うと、これじゃSNSでまた叩かれる気がする」
「ちょっと彼氏、少しはなぐさめてくれてもいいッスよ!?」
「そうは言っても、判断するのは読者だからなあ」
「まあ、そんなんスよねえ。SNSでしか反撃できない漫画家なんて、情けない限りっスからねえ……」
芽美もSNSで叩かれたコトが、トラウマになってるようだ。
「そうだなあ。まずは絵柄……前回の軽い感じのサッカー漫画ならともかく、今回はある程度のリアリティが要求されるだろ?」
「でも、萩原みたいなリアル寄りの絵は、描けないんスよ……」
「ヴァンパイア探偵が成り立ってるのも、あのリアルな絵柄のお陰だしな」
すると目の前の席で、彼女がホッペを膨らませて、こっちをにらんでいる。
「そ、そうだなあ。あそこまでリアルにする必要も無いケド、例えばこれくらいのリアルさなんて描けない?」
ボクは芽美に、流行りのアニメの画像が映ったスマホ画面を見せた。
「ん……たぶん描けるっすよ?」
芽美はコピー用紙に、一瞬でキャラを描いてみせた。