ドリーマーズ・アゲイン
ボクはけっきょく、逃げなかった。
「これは……究極に卑怯な選択だな」
彼女たちともう一度、ネット漫画雑誌を作れるという、自分勝手で捨ててっしまった夢を、ボクは自分からは一切動かずに、再び手にしたのだ。
「ニートのオレらしい、チキンな選択だ。でも、もう一度……チャンスをくれ」
ボクは、二日酔いの頭をフラつかせながら、何とか立ち上がった。
しかし、裏を返せば、立ってるだけでもやっとの状態だった。
「だ、だいじょうぶっスか? だらしないっスねえ」
「部屋も、こんなに汚しちゃって……このまま出たら、ここの人に叱られるよ」
芽美は、ボクに肩を貸してくれて、萩原さんはボクが散らかした、缶ビールやら焼き鳥やらを、片づけ始めた。
「お兄さん、ちょっと飲み過ぎだよ。これじゃ、二日酔いにもなるでしょ」
「あ、この缶、まだチョット残ってるよ。もったいないなあ」
山口さんと、大野さんも、それを手伝っている。
「お、お兄さん、お風呂場、汚し過ぎですよ。全部、洗い流さないと、ダメだよこれ」
お風呂場で、市川さんも叫んでる。
ボクは、母親がいっきに五人に増えた感覚に襲われた。
「うう……面目ない」
ボクは、女子高生たちに伴われて、ビジネスホテルを出る。
何度かの吐き気に襲われながら、ボクはボロアパートまで送ってもらった。
「まったく、どんだけ世話が焼けるっスか? 今日は体調も悪そうだから、これくらいで勘弁するっスケド、明日みっちりお説教っスからね」
女子高生たちは、息巻いて帰って行った。
ボクは、煎餅のようなペラペラの布団の上で、昨日からの出来事を振り返る。
「けっきょくオレって、電車で繁華街に行って、近くで酒とつまみを買って、ビジネスホテルで飲んだだけだよな?」
まだ、天井のシミも、グラグラ揺れている。
「これが、Fラン大とは言え、大学を出て何年も経つ、オッサンの所業なのだろうか……?」
自分の逃避行の稚拙さに、つくづく呆れる。
「こりゃ、いっきにイメージダウンだな。考えてみたら、女子高生の前だし、無理してたのかもな?」
ボクは、自分の基本スペックの低さを隠して、大きく見せようとしていた。
「彼女たちの夢のためにも、自分自身のためにも、もう一度オレが作ったネット漫画雑誌と向き合ってみないとな」
その日、ボクは色々と考えているうちに、眠りについていた。