「頭にくるっス。今度かかってきたら、ガツンと言ってやるっス!」
「信じらんない。漫画をお金儲けの道具としか、考えてないんじゃない!?」
少なくとも、原田妹と萩原さんの怒りはかなりのモノで、ボクは軽々しく話してしまった事を後悔した。
「お兄さん、そいつのアドレス解るかな? 名前とか解るかも」
「ヒドいヤツだって、SNSで拡散しちゃえ。絶対バズるよ」
山口さんと大野さんも、とんでもない事を言い出した。
「バズるどころか、炎上しそうだよ。落ち着いて。みんな一旦落ち着こうよ」
彼女たちの怒りの火を消すのに、30分を要した。
「ふう。やっとみんな落ち着いてくれ・・・」
すると、ボクのスマホが鳴った。
・・・と同時に、女子高生たちの目付きが変わる。
「あ、はい」
電話に出たボクの体は、周りに集まった女子高生たちによって圧迫される。
スマホの向こう側にいる男の声を聞き漏らすまいと、聞き耳を立てていた。
「はいじゃねーよ。っつか、昨日のそっちの提案なんだケドさ。クライアントの企業に伝えたらOK出たわ」
「え!? そ、それじゃあ」
「ページ数アップも了承された。おかげでこっちも、依頼料アップだわ。とりあえず、ネームの段階で見たいから、できる限り早く送ってくれってよ」
「わ、わかりました」
「っま、今回はお互い良かったな。ケドよ。今回みたいな、物分かりのいいクライアントも稀だ」「そう・・・ですね」
「漫画に何の想い入れも無いヤツや、逆にめちゃくちゃ読んでるってだけで、知った気になって色々言ってくるヤツとかいるけどよ。そんなのから依頼が来たときどうするかも、ちゃんと話し合っておけよ。いいな」
「は、はい・・・あの?」「ん、なんだ?」
「この度は、すみませんでした」
「は、はあ? 何今さら誤ってんの。依頼者に立てつくってのは普通、許されねえコトだからな。今回はたまたま、運が良かっただけ。覚えとけよ」
スマホの通話は、それで切られる。
周りに集まった女子高生たちは、一斉に言論の自由を回復した。
「な、なんで謝っちゃうっスか、お兄さん」
「そうだよ。もっと言ってやりゃあいいのに、お人好しなんだから」
「やっぱ、社会的に消えてもらおう」「それがいいよ」
「良くない!」ボクは、山口さんと大野さんのスマホを止める。
コンビニのフードコートから、他の客と原田兄は消えていた。
「オ、オレも少しくらいは、言い返そうと思ったんだ」
「ならどうして・・・」「言い返さなかったっスか?」
「ん~、たぶん彼も、漫画は嫌いじゃないと思ったからだよ」
「ど、どうしてそんなコトが、解るっスか?」
「なんとなくだケド、話してるウチにそう思えたんだ」
女子高生たちは、不満そうな顔を並べていた。
「やっぱ今回の事は、オレにも落ち度はあった。彼にも言われたよ。今回みたいな物分かりの良い企業で無かった場合、どうするのかって」
「どうするって言われても・・・」「ど、どうするっス?」
「それをみんなで考えよう」
ボクは、四人の女子高生たちと向き合った。
「これからは、漫画でお金を貰う可能性も高まってるんだ。ちゃんとみんなで話し合って、決めておかないといけない」
「そうっスね」「うん、そうかも」「プロ意識かあ」「何か、大変そう」
原田妹も、萩原さんも、山口さんも、大野さんも納得してくれた。
「ところでお兄さん?」「なんだい?」
「電話してた彼って、なんて名前っスか?」「・・・き、聞いてない」
「確かにお兄さんにも、落ち度あるっスねえ」
四人の女子高生は、生暖かい目でボクを見た。