それから佐藤は、さっさとコンビニを出て行った。
原田妹に、ネットマンガ雑誌の休止を伝えるという目的は、達成されないまま立ち消えてしまった。
「ま、帰って計画を練り直すか?」
ボクは、ボロアパートへと帰るなり、フリーランスのサイトに目を通した。
「フリーランスの仕事も、目ぼしいモノはないか・・・ん、なんだ、これ?」
ボクはパソコンに、メールが来ているのに気付く。
「な、なんだ? 請け負ったコト無い会社だぞ?」
ボクが請け負ったフリーランスの仕事は、まだ数件だった。
「えっと、貴社の提供されているネットマンガ雑誌を、読ませていただきました。つきましては、この度弊社が始めるネットサービスの漫画を描いて・・・欲しい?」
メールは、ネットベンチャー企業からのものだった。
「つまり、この会社が新たに開発したSNSは、文字のみの説明では解り辛いから、こっちで漫画を描いてくれってコトか?」
ボクは、身震いがした。
十分ほど腕を組んで考えたが、大したアイデアは出ない。
「ボクだけじゃ、何とも結論が出ないな・・・しゃーない」
ボクは、貯えの少なくなった財布の中身を確認する。
「今日、みんなに連絡を入れておいて、明日、喫茶店に集まってもらおう」
「うっス。お兄さん、企業から案件が来たって、マジっすか?」
ボクが喫茶店の席で待っていると、最初に姿を現したのは原田妹だった。
「ああ、そうなんだ」
「凄いじゃないですか、お兄さん」
市川さんも、すぐにやって来た。
「でも、ただでさえスケジュールが立て込んでるのに、これ以上キミたちの時間を使うワケには・・・」
「あ、お兄さん、久しぶりあです」「懐かしい」「それ言い過ぎ」
姿を現したのは、萩原さんと、山口さんと、大野さんだった。
「アレ、キミたち、漫画は辞めたんじゃ?」「はあ?」「なにそれ?」
大野さんと山口さんが、不機嫌そうな顔をした。
「ウチらも、漫研なんだけど?」「でもまあ、漫画は手伝いで、もっぱら情報拡散担当だケドね」
「そうなのか。おかげで仕事が入ったよ」
「それ、本気で思ってる?」「なんかうわべ臭~い」
「そ、そんなコトないって」
「わたしもそう思うよ。二人は、お兄さんのネットマンガ雑誌の情報を、拡散しまくってますからね」
萩原さんが言うように、今回企業から漫画の依頼が来たのは、大野さんと山口さんの、SNSでの情報拡散能力に寄るところが、大きいと思った。
「そ、それでですね。わたしも、本格的に漫画を描いてみようと思います」
萩原さんが言った。彼女は、最初の四人の女子高生の中では、一番可愛い顔をしていたが、パソコンの中のボクの秘密を暴いた、張本人でもあった。
「ど、どうして急に?」「だって、手伝いだけってシャクじゃないですか。原田や市川さんに比べたらまだまだだケド、わたしだって絵も漫画も描いてるんですよ」
すると原田妹が、勝手に注文したアイスココアをすすりながら言った。
「萩原は、Gペンとかはそんなに得意じゃないっス。でも、ペンタブ握らせたら、アタシより上手いっスよ」
「そっか、萩原さん、パソコンが得意だったもんね」
今回、依頼の説明漫画は、萩原さんが中心になって制作するコトとなった。