ヴァンパイア探偵
夕焼けで紅く染まる公園は、まだ子供たちのにぎやかな声が聞こえてくる。
「相談……ってやっぱ、漫画のコトだよね?」
ボクは、萩原さんに問いかけた。
「そ、そうなんだ。スランプって言うか……さ。大野の言葉通りでしゃくだケド、元々あたしにストーリーなんて、描けなかったんじゃないかって」
元気のない萩原さんを、ボクはベンチに座らせた。
「例えばだケド、萩原さんってパソコン得意だよね? パソコン関連を題材にしてみるとか、どうかな?」
「リアルなパソコンなんて、描けないよ。それに、話しもイマイチ思いつかない」
どうやら、既に試していたコトの様だった。
「そ、それなら、芽美に教えてもらった、鉛筆を……」
「それもダメ。鉛筆がスランプみたい」
彼女には少し、発想力が足りないのだと思った。
「やっぱアタシって……漫画、向いてないのかなあ? 原田や、市川さんみたいに、根っからの漫画好きとは、違う気がするんだ」
ヒザを抱え、ベンチに座る萩原さん。
「企業漫画描いて、いっぱいお金を貰って浮かれてたケド、それもネームは原田が描いてくれたんだよね」
「どうかな? 正直に言えば萩原さんは、デジタル絵に関してはかなりのレベルだと思うよ。絵もキレイだし、話もまとまってる。キャラの配置や、コマ割りもキレイだし、吹き出しに入る文字も、一番入れやすかった」
「結局それって、言われたコトしか出来ないってコトじゃん。やっぱアシスタントが、関の山ってワケかあ?」
萩原さんは、足をバタバタさせて夕焼けを見上げた。
「イヤ……そうじゃない」「いいよ、なぐさめは。返って辛くなるよ」
萩原さんはこの時、本当に泣いていたのかも知れない。
「たぶん……だケドさ」ボクは彼女の方を、あえて見ないように言った。
「漫画家の中には、原作者がいた方が、生きる漫画家も居るんだ」
「原作者?」「たまにあるだろ? 原作と漫画が別々っての」「ああ」
萩原さんは、うなずいた。
「つまりわたしは、誰かの原作とか描く方が、向いてるってコト?」
「そうじゃないかなあ? そこで……なんだケド?」
「ん? そこで……どうしたの?」
「オレが原作じゃ、ダメかな?」「へ……ええッ!!?」
萩原さんは、顔を真っ赤にしながら叫んだ。
「お、お兄さんが原作で……ア、アタシが、漫画描くのぉ!?」
「実はさ、前々から描こうと思っていた、ストーリーがあるんだ。でも、オレの画力じゃ、ちょっと微妙なんだよね?」「ど、どんな話?」「探偵もの」「聞かせて!」
ふと横を見ると、間近に彼女の顔があった。
「導入は、ある女が誰かに追われているところから始まるんだ。その探偵は、夜にしか活動しないから、人々は彼のコトを……」
萩原さんに、自分の考えたストーリーを伝えた。
「ヴァンパイア探偵……なんか、凄いね! 面白そう!!」
萩原さんの顔に、笑顔が戻っていた。