一ヵ月が経過した。
市川さんの11ページの漫画も、何とか完成し、ボクの漫画雑誌を通じてネットに公開された。
「ハワイのマウナケア山に降り立ったサムライが、ヒロインの女の子を雪崩から救って、恋心が芽生える話か」
内容も絵も、ボクが文字入れの作業をした段階で解っていた。
けれども、スマホで漫画として読むそれは、違った感覚で見れた。
「市川さんの漫画、おかしな設定だケド、反応は良好みたいだね」
ボクは、漫画を描きにアパートに来ていた、原田妹に言った。
「そ、それがっスね、お兄さん。言いにくいんスけど・・・」
「ん? どうしたの?」
「いや、それが市川がっスね。今回のテストで成績が下がったみたいで」
「ええ、そうなんだ!」
ボクは、そうなる事を予測はしていた。
けれども、漫画雑誌が少しずつ注目を集めて行く成功体験にうかれ、対処をおろそかにしてしまっていた。
「わたしは元々、落ちるトコまで落ちてるからいいんっスけど、市川は美大に進みたがってたっスから」
原田妹にしても、成績が悪いままで良いとも思えなかった。
「そういえば、イリヤさんは?」
「フランスに帰ったっスよ。元々、一ヵ月きりの交換留学だったっス」
「萩原さんたちも、最近は来なくなったね」
「萩原たちは最初から、趣味みたいな感じで参加してたっス。漫画に飽きたのかも知れないっス」
そう言うと原田妹も、早めに作業を切り上げて、帰って行った。
「そっか・・・みんなそれぞれ、都合があるよな」
それは、当たり前のコトだった。
「最近はオレも、フリーランスの仕事、全然こねーし、ニートに逆戻りか?」
ボクは、日焼けした畳に寝そべる。
アパートの、雨漏りの跡だらけの天井を、久しぶりに見た気がした。
「コーヒーでも、煎れるか」ボクは、苦いコーヒーが飲みたくなる。
「あれ、コーヒーが切れてやがる。しゃーない、コンビニ行くか」
空っぽの瓶を、資源ごみの袋に分別すると、アパートを出た。
「なんなんだ、この喪失感は。たまたま上手く行っていた雑誌が、ダメになっただけじゃないか?」
ボクは、コンビニまでのわずかな道を、歩きながらつぶやく。
「あの、わがままな女子高生たちに、ポテチやら焼き鳥を、買いに行かされていたときの方が、今よりは気分もマシだったのに」
思い悩む間もなく、コンビニにたどり着いた。
レジで、コーヒーだけ買って外に出る。
「まだ原田妹がいる。でも、一人だけで続けさせるか?」
コンビニの100円コーヒーを、グビっと飲み込む。
「漫画の作業は、ハンパなく大変なんだ。萩原さんたちが来なくなった今、漫画を生み出すペースは、相当落ちるハズだ」
ボクは、重大な決断を迫られる。
「女子高生なんて、人生で一番大切な時代じゃないか。無理に、ニート上がりのボクのわがままに付き合わせるなんて・・・できないよな?」
紅い夕日は、ビルの隙間へと消えて行った。