女子高生と漫画
「ねえ。振り込まれるお金って、どう分配されるのかな?」
萩原さんが、マンションの萩原さん自身の部屋で言った。
「そんなコト、知らないっスよ。決めるのは、お兄さんっス。もしかして萩原、自分が総取りできるとでも思ってたっスか?」
「お、思ってないわよ。嫌な言い方するなあ、原田」
「でも、考えてみたら、お金の分配の仕方とか、全然決めてないのも問題だわ。それに、お金を貰ってるんだから、領収書とか納品書とか、所得税の申告とか、色々と会計に関する手続きが必要になって来ると思う」
「山口の言う通りかもッス。アタシも人のコト言えないっスケド、お兄さんもそーゆー方面、疎そうっスからねえ」
「原田も漫画家を目指すなら、しっかりして置いた方がいいわよ」
「そ、そうは言ってもっス。今描いてるサッカー漫画だけでも、大変なんすよォ。人気じゃ最近、市川のスノボサムライに負けてる感じっスからね」
「そ……そうかな?」市川さんは、何故か照れていた。
「でも、漫画家って結局のところ、個人事業主なワケでしょ。例え二十万全額入ったとしても、そっからアシスタント料や仕事場の家賃なんかを引かれるのよ」
「ぐああ、山口。おかんよりうるさい。今は、お金が入っていい気になりたいだけなの。現実を持ち出したら、せっかくの気分が台無しだよ」
萩原さんは、自分のベットに寝転がる。
「パンツ見えてるっスよ」「別に女同士なんだから、問題ない」
「萩原も原田も、なんかやる気無くない? やっぱ、お兄さんに構ってもらわないと、やる気出ないんだ?」大野さんが、グサリと核心をえぐった。
「そ、そんなコト、無いっス!!」「そんなの、あるワケ無いじゃん!!」
二人が同時に、叫んだ。
「やっぱねえ。こりゃ、乃梨ちゃんが心配するワケだ」
「な、なに勝手に決めつけてるっスか、山口!!!」
「そ、そうだよ。大野も、構ってもらうとか、アタシらペットじゃないし!!」
芽美と萩原さんは、顔を真っ赤にしながら反論していた。
「い、今は真面目に、漫画描くっスよ!」
「……つか……さ。次、あたし、何描くワケ?」
萩原さんは、IT企業漫画を描き終えた後のプランは無かった。
「企業漫画のネーム、ほぼアタシが描いてるっスからね。今度は自分で全部、描いてみたらどうっスか?」
「そ、そうだね。流石にあんな大金貰っちゃうと、プロとして漫画の質を上げないと、ダメだと思った。ネームから、自分で描いてみる!」
そう決意した萩原さんだったが、十分後には鉛筆を転がし始めた。
「実はさ、原田、萩原。わたしも、漫画を描いてみようかと思ってる」
「や、山口がっスか?」「ど、どんなのか、決まってんの?」
「株とか、投資に関する漫画だよ。ネーム、描いて来た」
山口さんは、ネームのコピー用紙を机に広げる。
「こ、これ、ネームっスか? このまま正書できるレベルっスよ?」
山口さんは、優等生で几帳面だった。
そんな女子高生たちのやり取りを、ボクは知る由もなかった。