腐ってやがる……
「けっきょく、漫画を描くのに漫画から離れて、一から何かを始めるってのは、どうかと思ったっス」
アタシは、自宅の自室に呼んだ鷹詞に、恐る恐る言ってみた。
「アタシが一番詳しいのは漫画っス。なら、漫画の世界について描けば、いいんじゃないかと思ったっス」
「でも、漫画の世界を描いた漫画なんて、そこそこあるんじゃないのか?」
予想通りの答えを返す、彼氏。
「アタシが描くのは、今までの漫画の枠に縛られず、自分でネット漫画雑誌を立ち上げる、主人公の話っス!」
「そ、それって、芽美……オレのコトなんじゃ!?」
「そうっス。問題無いっスよね? 最初に話を聞いたとき、鷹詞をモデルにした漫画を描いてもOKって約束だったっス」
「そう言えば、そうだったな? でもオレ、てっきり同人漫画の話かと思ったよ」
「最初は、同人漫画にする予定だったし、ネームも描いたんスけど、サッカー漫画描くのが忙しくなって、断念したんスよ……」
アタシは、チラリとネームの隠してある、机の引き出しを見た。
「ん、ここに入ってるのか? どれどれ?」
「うわあ、開けちゃダメっすゥ!!?」
必死に止めたが、時すでに遅かった。
「こ……これは!? オ、オレ……大変なコトになってるんだケド!?」
「ま、ままま……まあ腐女子の描く漫画は、こんなモンっすよ!」
「……つ、つまり?」
「男の娘が妊娠するなんて、当たり前っス!!?」
「オレは、男の娘じゃねェよ!! 勝手に妊娠させんじゃない!!」
やはり、誤魔化しきれなかった。
「今の時代、受けの男が妊娠するのは、とーぜんなんスよ? むしろ妊娠しないなんて、異常っス。完全にアウトっス!!」
「とんでもない時代が来てんだな、オイ!?」
鷹詞は、真夏なのに寒そうに震えていた。
「め、芽美はまだ高校生だろ? こんな漫画描いちゃ、ダメじゃないのか?」
「ベットの下の本や、パソコンのいかがわしい画像はOKっスか?」
「あッ、ああ……アレは、その……まあ、な?」「なにが、まあっスか!?」
アタシは、どさくさに紛れて、鷹詞からネームを取り上げる。
「ホントはこのネームも完成させて、去年の夏コミに出す予定だったのにっス」
「そんなコトされたら、オレはとんでも無いコトになってたぞ!? と、とりあえずそのネームが、日の目を見ずに済んでよかったよ」
「主役の受けのコも、完全に鷹詞にはしてないから、身内にしかバレないっスよ」
「それだけで致命傷だわ。とにかく、ダメだかんな!」
「わ、わかったっスよ。それなら……」
アタシは鷹詞の顔の前で、目を閉じてみる。
「な……なな、なんだよ、急に!?」
鷹詞が、どんな反応をするのか確かめて見たかったし、アタシがどんな反応をするのかも、知りたかった。