先パイの悩み
「こ……これは!!?」
手渡されたネームは、かなりビミョーなできだった。
「えっと、主人公の女の子が、宇宙の多目的競技の選手で……色んな惑星を周って……え!?」
「ど、どうかな、お兄さん?」
「う~ん、ちょっとこれはまだ、練りが足りないかなあ?」
「そ、そうですか……」明らかに落ち込む、大野さん。
「そ、そんなに落ち込まないで、先パイ!」「ファイトですよ」
後輩に励まされ、顔を伏せる大野さん。
「……や、やっぱわたし、ダメだなあ」
伏せた髪の向こうから、大粒の涙がこぼれる。
「原田も漫画のことスッゴク知ってるし、萩原だってタブレットで絵を描かせたら上手いし、山口も難しい話が得意だし……」
顔を真っ赤にして泣く、大野さん。
「わ、わたしだけ……わたしだけ、何もしてない!?」
鼻水を垂らしながら、訴える女子高生。
「そ、そんなコトないだろ? SNSで雑誌の宣伝してくれてるじゃないか?」
「で、でも……漫画描きたいのに……エッグ!」幼子のように、嗚咽を始める。
「こ、後輩のコたちだって、わたしに憧れて入ったコなんて一人もいない。わたしなんて、直ぐにみんなに追い抜かされちゃうんだ!!」
大野さんも、彼女なりに悩んでいたようだ。
(大野さんって、意外とメンタルが弱いんだなあ……って、人のコト言えんか?)
ボクは、立ち上げたネット漫画雑誌を捨て、逃げ出した事を猛省する。
ふと周りを見ると、コンビニのフードコートで、ボクが女の子を泣かせてる様にみえるのか、他の客から距離を置かれていた。
「マ、マズイ!? どう考えたって、そうとしか見えない!!」
ボクは、疲れた頭で必死に考える。
「そ、そうだ!」「ど、どうしたんですか、社長?」「急に大声を出されて?」
後輩の三人から、不審な目で見られるボク。
「前に見せてもらったのの方が、出来はいいかな?」
それは以前に、ファミレスで見せてもらったネームのコトだった。
「あの、猫カフェのヤツですか? も、持ってますよ」
大野さんは、カバンからゴソゴソと、別のネームを取り出す。
「あ、これこれ。猫が大好きな妹と、猫アレルギーが酷いのに妹が大好きだから、頑張るお姉ちゃんの話」
「そ、そっかぁ。確かにわたしも、こっちのお話の方が進めやすいんだよね」
「二人とも、お父さんの猫カフェの看板娘だろ? ご近所さんや、学校の同級生も出しやすいと思うんだ」
「わ、わたし、こっちの話、描いてみる!!」
大野さんの顔に、笑顔が戻っていた。