第十世代CPU
「そういえば今井さんって、漫研入ったの六月だったよね?」
わたしは、隣を歩く後輩に質問する。
「そうですね、自分は漫研って原田先パイみたいな人が、同人っぽい作品描いてるイメージしか無くて、ちょっと敬遠してたんですよね」
「まあ、原田はザ・同人作家みたいなイメージだもんね」
「なので、自分みたいな推理マンガや、探偵マンガはちょっと違うのかなって、思ってたんですよ」
わたしたちは地下鉄に乗って、電気街でもある繁華街にやってきていた。
「でもですね。先パイのヴァンパイア探偵の連載が始まって、こんな凄い漫画を描いてる人が同じ学校に居たんだって気付いて……」
「そういえばSNSで、めちゃくちゃ探偵モノに詳しくて、作品推ししてくれてたファンがいたケド……」
「あ……それたぶん自分です」ファンの正体は、身近なところに居た。
「正直、お兄さんの原作があっての、ヴァンパイア探偵だからね」
「いえいえ、そんなコト無いですよ。萩原先パイの絵、近代的っていうかお洒落っていうか……洗練されてて作品に合ってます」
「そ、そお? 確かに原田と違って、アニメや漫画ってそこまで見ないし、ファッション誌とかよく読んでるからかな?」
「ですよね~。萩原先パイってガサツだけど、お洒落ですから」
「ガサツってなんだよ、ガサツって!?」
「読んで字の如くです。パンツ丸見えでソファに寝っ転がってる辺り、自覚ありませんか?」
自覚も、無くはなかった。
「だ、だって、女同士なら気にするコト無いじゃん?」
「そ~ゆ~油断が、社長の前でも出てるんじゃないですか?」
「う~ウルサイ後輩だ!?」「図星ですか……」
前に自作パソコンを組んだときのコトを、思い出していた。
「あ、見てください。第十世代の新しいCPUが出てますよ?」
「ホントだ。最近、ネット漫画雑誌の自分のページや、自分のブログでやってるアフィリエイトが好調でさ。お小遣いに余裕があるんだよね?」
「化粧品や小物のブログですよね? 自分も見てますよ」
「山口にやり方ってか、ノウハウ教えてもらって、それから好調なんだよね」
「じゃあ、買っちゃいましょうよ!」
「CPUしか買えないケドね……」
CPUだけ買って、レジでお金を払っていると、うしろから声がかかった。
「あ、萩原さんたちも来てたんだ。さっそく、最新のCPU買ってるんだ?」
「うわあ、お、お兄さん!?」「しゃちょー!!?」
わたしは、心臓が飛び出そうなくらい驚いた。
「オレは、組んだばかりだし、あまり予定も無いんだが……」
そう言いつつも、明らかに羨ましそうな目を、CPUの入った袋に向けるお兄さん。
隣に原田の姿は無かった。