猫カフェ
芽美が、ネット漫画雑誌を始める男のマンガのネームを描き……。
今井さんが、繁華街のアーケードを見降ろしながら、自身の生み出そうとする作品に、新たなインスピレーションを得ていた頃……。
「大野……アンタも漫画描いてるの?」
「そ、そうだよ。でも、山口に見せても、どうかと思うケド……」
二人の女子高生がある専門店で、タピオカドリンクを飲みながら漫画のネームを見せ合っていた。
「猫カフェの看板娘の、二人の姉妹のお話かあ。アンタにしては、中々いいじゃない」
メガネの女子高生が言った。
「アンタにしては……は、余計だよ、でも、珍しく良いって言うんだね?」
「そりゃ、良いモノは良いって言うよ。大野のこれまでのネームの中じゃ、一番出来がいいと思う」
「え、そう? お兄さんにも、こっちが良いって言われて、今こっち描いてるんだけど……」
「なる程ねえ。だから、猫カフェに付き合わされてんだ、わたし」
彼女たちの周りでは、小さな猫がニャー、ニャーと鳴いている。
「猫が大好きな妹と、猫アレルギーな姉が、色んなお客さんと会話をしながら、成長していくのね?」
「せ、成長するかは解らないケド、そんな感じ」
「そっかあ。んで、お店の内部調査ってワケね」
「取材って言ってよ」「ちゃんと許可取ってるの?」
「そ、それは……」大野さんは、アワアワしていた。
「取っておいたほうがいいかもよ? 写真をスキャンしてハメ込むんでしょ?」
「それが、写真だとわたしの絵柄には、合わなくて……」
「確かにアンタの描く絵って、かなりディフォルメされてるよね? よくもそれでキャラとして、まとめられるなあって、関心してんのよ」
「ヘンな関心の仕方、しないでよ。でも、十ページはキャラと吹き出しは描いてて、アトは背景だけなんだケド……」
「それならいったん、スケッチで描いた方がいいかもね」
「スケッチって?」「ホラ、こんな感じよ」
山口さんは、ファンタジー世界の武器屋や、城のスケッチを大野さんに見せた。
「わたしも、株とか投資モノの漫画だケド、異世界って設定だから、写真の取り込み技は使えなくてさ」
スケッチの描かれたノートのページを、めくる山口さん。
「こうやって、建物の設定を決めて置けば、後で同じ建物が出て来たときでも困らないでしょ?」
「そっかあ。山口ってノートの取り方、上手いって思ってたんだ」
「それ、勉強の話でしょ? でもまあ、そのスキルを使ってるのかもね」
「ところで山口は、自分の作品仕上がってるの?」
「うん……それなんだケド……」「ん?」
「実はそろそろ……漫画を描くの、辞めようと思って……」
山口さんは言った。