アーケードの上
「できる男とは思ってないケド、ヴァンパイア探偵は高校時代から温めていた作品なんだよ」
ボクは言った。
「そうでしたか……構想の積み重ねからして違うと?」
今井さんが、仰々しく返す。
「いや、そんな偉そうなモンじゃないよ。本屋で推理小説とか立ち読みしたり、たまたまやってたお昼のサスペンスなんかも、参考にしながら……」
「ふむふむ、そうやってアイデアをストックしておくんですね?」
「オ、オレの場合、そうだっていうだけで、人それぞれだと思うよ?」
「そっかあ。わたしも、お兄さんから原作もらってるから、考えなくて済んでるケドもっと色々と興味を持った方が良さそうだね?」
「オレもそう思うよ。実は推理モノにしても、ぜんぜん関係なさそうな本とかの方が、参考になったりするんだ」
「例えば、どんな本ですか?」
「そうだなあ、例えば釣りの本とか、旅行ガイド……コンビニに置いてある、フリーの住宅物件誌なんかかな?」
「え、そうなの? 釣りの本とか、どこが役に立つの?」
「推理モノってさ。どこで事件が起きたかって重要だと思うんだ。ちょっと不謹慎だケド、落ちたら人が死にそうな場所ってのも、けっこう載ってるんだ」
「確かにそうですね。それじゃあ旅行ガイドや、住宅物件の本も同じ理由かあ」
「旅行先とか、アパートとか、サスペンスじゃ定番の現場だモンね」
女子高生の師弟コンビは、お互いで研究を始める。
「有名な、ミステリーの女王も、旅好きで有名ですしね」
「その作家だと、ミッシング・リンクってあるよね。連続で人が……」
「人を隠すなら人ごみに、殺人を隠すなら……ってヤツですね?」
物騒な話をする女子高生とすれ違った人たちは、顔をしかめて去っていく。
「ねえ先パイ、この街で事件が起こりそうな場所を、探してみませんか?」
「人だらけのこんな繁華街で? 無いんじゃないの?」
「まあそう言わずに……ね」
萩原さんは今井さんにせかされて、アーケードの繁華街を歩き始めた。
「この裏路地の公園とか、どうですかね?」
「裏路地なだけで、人がいっぱいいるよ」
「じゃあ、こっちのお寺なんか……」
「派手な寺……っていうか、ビルに近くない?」
二人の女子高生は、ヴァンパイア探偵に登場する双子の女子高生のごとく、街をくまなく歩きまわった。
「ね、ねえ。もう日が沈みかけてるよ。止めにしない……?」
「そ、そうですねえ。そんな都合のいいロケーションって、中々無いですね」
「まだまだだなあ、二人とも。ついておいでよ」
ボクは、疲れ顔の女子高生に言った。
「ど、どこへ行くの、お兄さん?」「とっておきの場所さ」
ボクは二人を連れて、とあるビルの階段を上がって行く。
「うわあ、ここって……!?」
「しゃ、しゃちょーさん、スゴいです!!」
そこは、アーケードの屋根の上から、街を一望できる場所だった。