スウェーデンからの来訪者
「えっと……外国の方ですよね?」
「日本に住んで、十年になりマース。日本の山、とてもキレイね。日本人の奥さんと知り合ったのも山ね」
片言っぽい日本語ではあったが、意味は十分伝わった。
「あの、グンナーさんは、どちらの国から日本へ?」
「オ-、言い忘れてましたね。ワターシ、スウェーデン母国ね」
グンナーさんの綺麗な水色の碧眼には、少年のようは好奇心が溢れていた。
「グンナーは、元々はスノーボードの選手だったんだよ。事故でのケガが元で引退はしたものの、スノーボードから離れられず、デザイナーになったのさ」
「ワタシこのボード、デザインしたね。できれば、大事に使てほしいね」
それは、できれば『手描きで描いて欲しい』と、言っているようにも聞こえた。
「写真を加工して、使わせてはいただきますが、だからと言って適当な思いで漫画にするんじゃありません」
「オー、そうですか? ワターシ、あまり日本のマンガ詳しくないね」
「まあキミは、典型的なアウトドア派だからな」
「でも、興味ありまーす。ウチお奥さん、たまに読んでるね」
「それじゃあ、漫画を描いてるトコ、見学させてもらったらどうだい?」
「ええ!? う、宇津井さん。まさか、マンガ家の女子高生の家に、連れて行けっていうんじゃ?」
「あ、そうか? でも、とりあえず連絡だけしてみてよ。ダメだったらそう伝えるからさ」「む、ムリだと思いますよ?」
ボクは今日、写真の加工方法を教えに行く予定だった、萩原さんに電話した。
「え、外国の人が来るのォ? べ、別にいいケド、どこの国の人?」「え、いいの? スウェーデンだって聞いたケド」「北欧の人、来るんだって」「えー!?」「き、金髪かなあ?」「キャー」
スマホの向こう側で、黄色い声がキャーキャー騒いでいる。
「あ……オッケーみたいです」
「じゃあさっそく、行ってきなよ。でも車、止めるとこあるかなあ?」「マンションなんで、大丈夫かとは思いますが」「それじゃ、行きましょー」
大柄なスウェーデン人は、先頭を切って歩き出し、ボクは大きな背中を追った。
「これ、ワタシの車ね。乗って乗って」
グンナーさんの車は、大きなSUVだった。
燃費よりも、スノーボードが余裕で詰めるスペースと、雪道を走破できるパワーを求めているのが解る。
ボクは、右側から助手席に乗り込む。
低いエンジン音を上げながら、車は駐車場から大通へと出た。
まさか、スウェーデン人とドライブするハメになろうとは、夢にも思わなかった。