企業会議
「それでね。一度ウチの会議に出て、頭の固い人たちを説得して欲しいわけよ」
「え?」「その……簡単に言うと、上が納得してないってコトですか?」
「ま、まあ、はっきり言っちゃうとね」宇津井さんは、頭を掻いた。
「なあ、どうするよ、オイ」「どうするって……こっちが聞きたいですよ」
ボクと夜吸さんは、三十分ほど待たされた後、企業会議に巻き込まれる。
会議は、各店舗の売り上げ、生産ラインの効率化、在庫管理など、多岐にわたった。
「次は、広報の宇津井くん。キミの意見じゃ、漫画を採用したいとのコトだが?」
四十代くらいの部長らしき人が言った。
「はあ、そうなんですよ。我が社もこのまま何もせず、手をこまねいていてはジリ貧です。ここは一つ、インパクトのある……」
宇津井さんの説明を、六十代くらいの専務が遮る。
「最近は、若者のスポーツレジャー離れが深刻なんだよ。昔なら、スキーもボードも、それぞれのウェアも売れたケド、今は趣味も多様化しちゃったからさ。それを漫画なんかで、呼び戻せるとでも思ってるの?」
「は……はあ」歯切れが悪い宇津井さん。
「そうですね。でも、だからこそ漫画は、向いていると思います」
ボクは口は、いつの間にか動いていた。
「キミが、宇津井くんの言ってた、漫画家かね?」
「いえ。ボクはネット漫画雑誌の制作をしていて、漫画家さんに描いてもらっている立場です」
「よく解らんが、社長みたいなモノかね」「大雑把に言えばそうです」
専務は、漫画には詳しくは無さそうだった。
「それで、どうして漫画が向いていると言うんだね?」
「それは、漫画の絶大な影響力を見れば明らかです」
ボクは、立ち上がっていた。
「今まで漫画や、それを原作とするアニメは、日本のみならず世界中で、数々のブームを巻き起こしました。漫画には、そのポテンシャルがあるのです」
「確かに言われてみれば、漫画でブームが起こったのって、たくさんあるよな?」
「サッカーブームやバスケブーム、テニスブームとかさ」
「いや、それどころか、囲碁やカードゲームまでブームになってるぞ?」
若手社員から、次々に賛同の声が上がった。
「でもねえ。当たる漫画ばかりとは、限らんだろう?」
「それを言ったら、他の広告だって当たり外れはありますよ」
専務の反論を、今度は宇津井さんが覆した。
「わたしも実は、専務と同意見なんだ」
会議室の真ん中の椅子に座った、六十代くらいの人が言った。
その人は、間違いなく社長なのだが……。