高くそびえるビルに、気後れしているボクを他所に、夜吸さんはズカズカと中へと入って行った。
スポーツ用品企業
「本日、宣伝広報課の宇津井さんと、漫画の広告案件で予約をした夜吸です」
「夜吸さまですね。本日、十時半からのご予約となっております。こちらをお付けいただき、お入りください。宣伝広報課は、七階となっております」
受付のお姉さんが、完璧な敬語で案内してくれた。
恐らく、夜吸さんが居なければ、ニートだったボクは絶対に来なかった場所だろう。
ボクらは、エレベーターで七階へと上がった。
ドアをノックし部屋の中に入ると、中は意外と雑然としていた。
ポスターなどの販促物が、まだ企画段階なのか、コンピューターの画面に表示され、資料や書類も、机に山済みになっている。
「ああ。夜吸さん、こっちこっち」
小太りのおじさんが、机の向こうから声をかけて来た。
「お久しぶりです、宇津井さん。こっちは……」
自己紹介も終わり、宇津井さんは会議室へと、ボクらを案内した。
「まあ、座っちゃって。ところで漫画って、どれくらいで描けるのかな?」
宇津井さんは、さりげなくボクに質問した。
「そ、そうですね。えっと、モノにもよりますが、一日一ページが基本です」
「う~ん、まあそんなモノか?」
何やら、煮え切らない返答だった。
「でね。やっぱウチとしても、オリジナルな漫画を、ネットで連載してみたいとは思っていたワケよ」
もの凄く意外な答えだった。
「漫画を、連載したいと思ってらしたんですか?」
「そうだよ。漫画ってやっぱ、ブームになったりするじゃん」
かなり短絡的な考えだが、実際ボクもそれが狙いなので、その場はうなずいた。
「ウチってホラ。スポーツ用品店だから、色んなアスリートと契約してるワケよ」
今居る企業は、そういった企業の大手だった。
「でもさ。リアルなアスリートって、スランプになったり、ケガをしたりしてね。まあ、人間なんだから当たり前だケド。でも漫画なら、色んな競技の一流選手でも、描こうと思えば、描けちゃうワケだよね?」
「そういや、ボードのメーカーと契約してる選手、ケガだって言ってたよね」
「そうなんだよ、夜吸ちゃん。ウチのオリジナルブランドだからさあ。何とかして、あげられないかなあと思ってた矢先に、夜吸ちゃんの話が舞い込んで来てね」
「それでしたら、ウチの漫画家がサムライがスノーボードをやる漫画を……」
「うん、見た見た。面白いねえ。タイムスリッして来たサムライが、ハワイでボードって意味わかんないけど、そこが魅力なんだな」
ウチの漫画は、意外に知れていた。
雪に願いを
この漫画は、スポーツDEPOさんと、そのスノーボードのブランドでもある、キスマークさんに売り込みをかけようと、描いたものです。
十年以上前の漫画ですので、今見ると子供向けに寄せ過ぎたかなと。
この様な漫画を複数、ネットの漫画雑誌に連載するのが、狙いでした。
説明漫画だと、一過性過ぎると思うんですよね。
何年にも渡ってファンを獲得する連載漫画って、企業にとっても魅力的じゃないかと思います。