経営者の判断
「悪いが、経営者は理想だけでは出来ないのでね」社長は言った。
「漫画が人気なのは解かる。本当に人気のある漫画は、それこそ世の中の常識すら変えてしまう。けれどもそれは、ほんの一部の漫画に過ぎない。ごく少数のエリート漫画家が書く漫画だよ」
真理を付かれた、と思った。頭ごなしになら、まだ切り返せる。
だが、理論で来られた場合、それを論破する必要がある。
「そうですね。その通りだと思います」
ボクがトーンダウンすると、専務が噛みついて来た。
「ホラみろ。まるで自分のところの漫画が、絶大な影響を及ぼせるような言い方だったが、そんなのは妄想だ。宇津井、キミも漫画などを広告としてとらえずに……」
「専務、まだ彼は話したいようだ。話を聞いてみようじゃないか?」
専務は、社長の一言でおとなしくなった。
「確かに世の中を変えられる影響力を持った漫画は、ごく一握りです。クフ王のピラミットに例えるなら、頂上の上から数センチの間と言ったところでしょうか?」
「そんなにかね。だからわたしは、漫画など……」「専務」「はい」
「ですが、そんな頂点の漫画家は、ネット漫画雑誌で連載はしてくれないでしょう。彼らは、彼らの描く漫画が載っているから、掲載されている雑誌が売れるのです。エリート中のエリートであり、金にも名誉にも困ってはいないでしょう」
「それはそうだ」「そうね、無名のネット漫画雑誌と天秤にかけたら……」
会議室のあちこちから、ざわめきが聞こえる。
「漫画家のヒエラルキーの、次の段階である、『雑誌に載っていれば、読まれる漫画』を描ける漫画家も、大半は渋るでしょう」
「有名な漫画のついでに、読んじゃう漫画のコトね」
「雑誌を買ったんだし、もったいなくて読んでみると、意外に面白かったりするんだよな?」
若手社員は、漫画に詳しく、漫画をポジティブに捉えていた。
「ボクたちはまず、このレベルの漫画を目指します。このレベルの漫画でも、一部はアニメ化されたり、コアなファンも付いています」
「簡単に言えば、二流の漫画家だろ? そんな漫画には、大した影響力も……」
「いや、流石にそうとも言い切れないな、専務」
社長は、少し考えながら言った。
「もう少し、話しを聞かせてくれないか? キミのネット漫画雑誌には、どんな漫画が載っているのかな?」
「それなら、皆さんのスマホで、すぐに読めますよ」
ボクは、服の胸ポケットからスマホを取り出した。
アドレスを教えると、会議室に集った社員全員が、ボクのネット漫画雑誌を読み始める。
ボクは、不思議な光景だと思った。