家に帰ったボクは、『掲載する漫画のクオリティアップ』の項目に、以下の注意文を書き加えた。
・漫画について意見を言うのであれば、自分の好みじゃなく、その漫画についての意見を言うってコト
・漫画に対して提案するのであれば、その提案がストーリーにどう影響を及ぼすかを考えた上でするコト
「これで良しっと」加筆したテキストファイルを、パソコンに保存する。
「こうやって文章にしてみると、どっちも当たり前のコトだよな」
でもボクは、その当たり前のコトが解っていなかった。
「漫画ってのは一般人が思うより、遥かに考えられて作られているんだな。それに一般人との認識が、かけ離れてるのが気になるな」
これから企業を相手に商売をする場合、相手の責任者にも、ボクと同じコトが起きうるのだと感じた。
「恐らくこりゃ、毎回説明するハメになりそうだな。しかも、相手が聞き入れてくれるとも限らない。相手が頭ごなしに、自分の意見を押し付けてくるヤツだったら、原田妹は漫画を描くのを拒否するだろうな」
ボクはノートパソコンに、認識の乖離から起きそうな事案を羅列した。
「相手が優柔不断でも、漫画に対して無知であってもダメだ。資金のある企業でなくてはならないし、決定権のある人物が複数いても困るワケだ」
ボクはいつの間にか、天井を眺めていた。
「いっそ、こちらに丸投げしてくれる企業だったら、どんなに有難いか・・・」
思いまぶたを閉じようとした時、スマホが鳴った。
見ると原田妹からの連絡で、明日漫画を完成させるから、またウチに来てもいいか・・・という内容だった。
「まだ企業に相手にしてもらえて無いのに、あれこれ考えても仕方がない。とりあえずは、完成した漫画を雑誌に載せるコトに集中しよう」
ボクは明日の準備を開始した。
まずはUSB駆動の安物スキャナーを、パソコンに繋いで認識させる。
「あー、何やってんだろうな、オレ・・・」
準備の大半は、本や光学メディアを隠すコトと、動画ファイルを光学メディアに焼いて、パソコン本体からは削除する作業に充てられた。
「お疲れ~っス。お兄さんニートだから、大して疲れてないっスか?」
翌日、原田妹が三人の友人を引き連れてやって来た。
「うるさいな。否定できないのが辛いところだが、こっちも無職じゃないぞ。一応はフリーランス・・・」
「はいはい、お兄さんの言い訳を聞きに来たワケじゃないっス」
「さっそく、始めますか」「仕上げっしょ」「気合入れて、頑張る」
四人はボクの意見など無視して、漫画の制作作業に入った。何日かぶりに、ボクの部屋にインクの匂いが漂う。
「ふう、やっと1ページ完成っス」「お疲れさま。じゃ、さっそく・・・」
ボクは原稿を受け取ると、近所のコンビニにコピーに走る。
原田妹が言うには、原稿は液体であるインクの影響で歪んでいる場合もあるらしく、コピーをしたモノの方がスキャナーに乗り易いとの事だった。
「アレ、ポテチはっス?」「ジュースは?」「デザートは?」「焼き鳥・・・」
ボクは再び、コンビニに走るハメになった。