契約
「このサッカー漫画、アタシ知ってる。友達に勧められて読んでみたのよ」
「スノボサムライも、面白いですよ。我が社のボードを使ってもらうのも、ありじゃないですか?」
会議に参加していた、各部署の責任者からも、意見が上がった。
「わたしも、サッカー漫画と、スノボの漫画は興味を惹かれたね」
社長がボクに向かって、渋く低い声で語りかける。
「サッカーに関しては、ウチはメーカーの商品を取り扱っているくらいだが、もう少し人気が出れば、オリジナルユニホームを作って、コラボしてもいい」
「な、なる程! いいアイデアだと思います」
ボクは、流石は社長だと思った。
「もしよければ、プロサッカーチームを紹介しよう。ウチの、取引先でね。まあ、漫画についてどんな考えなのかまでは、知らないが」
「よろしくお願いします、社長」
そこは夜吸さんが、調子良く答える。
「問題は、スノボ漫画の方です」宇津井さんが言った。
「話も、意表をついていて面白いし、アナーキーなのも、スノーボードのイメージとマッチしていると、思うのですが?」
「何が、言いたいのだね、宇津井。キミはまさか、彼らと契約を……」
「そうです。プロのスポーツ選手と契約を交わすのと同じように、漫画のプロと契約するのです」
専務の反論を、宇津井さんが押し切る。
「フフフ、面白そうじゃないか? キミたちのところの漫画家が良ければだが、わが社はスノーボードサムライ漫画の、スポンサーとなろう」
社長の決断は早かった。
「それで、契約体制のお話ですが……」「月に三十でどうでしょう?」
夜吸さんの出鼻を、宇津井さんがくじいた。
宇津井さんは口数も少なく、積極的でも無かったが、最初から彼の筋書き通りに、話しが進んでいた気もした。
その後、夜吸さんと、宇津井さんが中心となって、契約書が交わされた。
無論、スノボサムライ漫画を描いている、市川さんにも連絡をした。
「どうやら彼女も、漫画を続ける決断をしてくれたみたいです」
「そっか。こっちも書類の整理、付いたぜ」
ボクたちは、会社を後にした。
思えば、かなり良心的な人ばかりで、ボクから見ればご年配の社長や、専務ですらスノボに詳しかった。
「ボクはこれから、市川さんと打ち合わせですね。彼女にも、会社に足を運んでもらうコトになるでしょうから」
「そうだな。で、金の分配はどうする?」
「え? 夜吸さんが、十……じゃ、ダメですか?」
「オイオイオイオイ、それでいいのかよ? 今回、会議でいきなり契約を勝ち取れたのは、お前の力だと思うぜ?」
「でも、セッティングして、ここまで連れてきてくれたのも、夜吸さんじゃないですか。書類関連だって、ボクはまだ解らないことが多いですし」
「まあ、そうだケドさあ」夜吸さんは、まだ納得していなかった。
「漫画について、ボクは世の中から、正当に評価されたらなあって思ってます。それと同じで、営業の仕事も、正当に評価されるべきでしょう?」
「お前、真面目だねえ」夜吸さんの口元は、緩んでいた。