原田は外出中で、二時間くらいで帰るから、勝手に上がってくれとの事だった。
念のため呼び鈴を押したものの、誰も出てくる気配がなかい。
「ゴ、ゴメンください。誰かいませんかぁ?」
何度か呼び掛けてみたものの、やはり反応が無かった。
「やっぱ昨日、漫画は手間がかかるとか言っちゃったから、怒ってどこか出かけちゃったのかなあ?」
ボクは原田妹の事が気になったが、居ないものは仕方がない。
そう思って玄関で靴を揃え、障子の向こうの居間に入った。
和室に似合わない、ガラスのテーブルの前にはソファがあった。
ボクはソファに座って、ノートパソコンを広げた。
「中古で2万の安物だが、テキスト打つくらいは問題ない性能だからな」
原田が帰ってくるまでの時間を、ホームページの企画立案に充てる。
すると障子とは反対側のガラス戸が、ガラガラと開いた。
「ふぃ~、みず・・・みず飲みたいっス」
下着姿の原田妹が入ってきて、置いてあったピッチャーに手をかけ固まった。
「・・・ア、アレ・・・アニキ・・・じゃないっス!?」
彼女は前が開くタイプのパーカーを羽織っていたものの、桜色の下着が完全に見えていた。
「あ、ああ。原田は出かけてて・・・」
ボクは、咄嗟に目をそらす。
「なッ、ななななな、なんで・・・なんでお兄さんが居るっスかッ!?」
「原田は外出するから、先に上がって待っていてくれと言われてだな」
「ふぎゃあああぁぁぁぁーーーーーーーーッ!!」
原田妹が、慌ててリビングを立ち去る。
直ぐに、バタンと大きな音がした。
「アニキ、後で絶対ぶっコロすっスぅ!」
激しい怒りの声が、部屋から聞こえた。
しばらくすると、パーカーの中身を着替えた原田妹が、部屋から出てきた。
恨めしそうな瞳をぶら下げて、ボクの前のソファに胡坐をかいて座る。
「グズ・・・で、なんの用なんっスか?」
原田妹は、完全に鼻声だった。
「もしかして、休んだ理由って風邪?」「見ての通りっス。どしたんスか?」
パーカーのフードの下の瞳が、ボクを不思議そうに見つめてる。
「いや、キミが学校休んだって聞いたんで、ちょっと気になったんだ」
「なにがっスか?」
「もしかしたら昨日、オレが漫画について手間がかかり過ぎるって言ったのが、マズかったかなって」
「気にしてないっスよ。漫画が手間がかかるのは、事実っス」
「でも昨日一日考えてさ。漫画はとてつもない可能性もあるメディアだと、気づいたんだ」
「そっスか? まあ、可能性があるのは確かだと思うっス」
「問題は、どうやったら漫画の可能性を、最大限引き出せるか・・・なんだが」
「簡単には行かないっスよ。それが解れば、誰も苦労しないっス」
ボクは原田妹に、昨日の意見をぶつけてみた。
「確かに、舞台設定が自由なのは、漫画の強みっスね。その気になれば宇宙だろうが、異次元だろうが、簡単に行けちゃうんスから」
「それに漫画の中なら、簡単に超人が生み出せる。地道な努力家から、素手で地球を破壊してしまうモンスターすら」
「なる程っス。流石に動画でも、素人が簡単に作れるモノじゃないっスね」
胡坐をかいていた少女は、今度はヒザを抱え込んで座る。
「オレは、漫画のネガティブな部分にのみ、目が行っていた。反省してる」
「なんスか、改まって。でもなんか、うれしいっス」
原田妹は、漫画を褒められて上機嫌だった。