池田さん
「とりあえず今度の打ち合わせは、オレも行こうか?」
「あ、ああ。だが池田さんに、ヘンな視線は向けるなよ?」
「いやー、別に無理にとは……」「スマン、来てくれ!」
「わかった、行くよ行くよ」
打ち合わせは、三日後の土曜日だった。
待ち合わせ場所の、大きな道路に面するファミレスの前に、パリッとしたスーツを着た佐藤が立っている。
「池田さんの趣味は、かなりフォーマルなんだな?」
Fラン大時代から最近までの佐藤が着ていた悪目立ちする服から、センスの良いスーツへと変わっていた。
「そうなんだ」「でも、そのスーツ、高そうだけど、自分で買ったのか?」
「最近はオレのブログやSNSも盛り上がって来てるからな。アフィリエイトで多少は金も入ってくるんだ。少なくとも、バイトよりは割がいい」
「人気サッカー漫画の先生がやってる、サッカー関連のブログだからな。そりゃあ人気も出るか?」
「でも、コアやサッカーファンも多くてさ。そこが厄介といえば厄介かな。フォーメーションとか、戦術とか妙にシビアでさ」
「それくらいは仕方ないだろ?」
「まあな。最近は、代表の試合のある日とか、SNSで生中継とかやってるんだケド、盛り上がってくれて有難い限りだよ」
「オイオイ、本業のほうは大丈夫なのか?」
「それが、そろそろヤバいんだ。お前と描いたネームが底をついて、新規で描かなくちゃいけないから、忙しくなってきてるのは事実だな」
佐藤とあれこれ話していると、傍らに池田さんが立っていた。
「おわ、ス、スマン!」ビクっとした佐藤が、謝る。
「いえいえ、社長さんと親友とは聞いていましたから」
池田さんは、少なくとも表面上は涼しい顔をしていた。
「立ち話もなんだし、ファミレスに入ろうか? それに、新規のネームも見てみたい」
「おう、わかった」
佐藤が扉を開けると、カランコロンと音が鳴った。
六人掛けの席につき、メニューを眺めながら注文する。
「目玉焼きハンバーグとドリンクバー。ライス大盛りで」「あ、オレも同じやつ」
「ペペロンチーノとドリンクバーをお願いします」
ボクと佐藤の前に座った池田さんは、かなり可愛らしい感じの服を着ていた。
「ところで、さっそくなんだが、ネームを見せてくれないか?」
「お、そうだった」佐藤はカバンから、コピー用紙を十枚ほど取り出す。
「う~ん、なんかこう、突き抜けない感じだなあ?」
それを見たボクは、率直な意見を言った。
「そ、そうか? 実はオレも、気にはなっていたんだ」
「例えば、新規のドリブラーのキャラ、もっと上手く使えないかなあ?」
「そいつかあ。ロン毛の茶髪キャラで、我がままというか、セルフィッシュなヤツだが?」
「あの……そのキャラなんですが、カリスマ美容師を目指してるって設定はどうでしょうか?」
池田さんが、ポツリと言った。