新キャラ
「とりあえず佐藤のサッカー漫画も、新キャラの登場で数話は持ちそうだな」
アパートの薄汚れた畳の上で、ボクは言った。
「だがな。ネームの段階ならもう一人くらい、新キャラをストックしておきたいところなんだ」
相変わらず、不安症の佐藤が反論する。
「あの……佐藤先生、キャラクターのラフ案、描いてましたよねえ?」
畳の上で正座したままの、池田さんが指摘する。
「ああ、これな。まだ外見だけで、どんな性格にするかまでは決めてないんだ。それ以前に、採用するかもわからん」
「どれどれ?」ボクは佐藤から、ラフ原案を受け取った。
「今の主人公チームって、どんなポジションがいるんだっけ?」
「まず主人公は、ミッドフィルダーのファンタジスタタイプ……なんだが、超コミュ症で試合によっての出来が激しい」
「な、なる程……」それは、佐藤みたいだとひそかに思った。
「あとは、超クールな優等生がボランチのポジションにいて、地味な努力型のサイドバックが一人ってとこだ」
「けっきょく、人気が出てるのは主人公と、クールな優等生……それに、チームオーナーで高校生のプロサッカー選手くらいか?」
そろそろ、テコ入れが必要なのも理解したし、佐藤もそれを悩んでいたのだろう。
「それに、オーナーのプロ選手は、主人公たちの試合には出らないんです!」
池田さんは言った。
「確かにこの手のスポーツものって、もう少し個性的なキャラを揃えた方が、上手く行くよな?」
「だろ? それで、こん中で使えそうなキャラってあるか?」
「あります! この日焼けした二人のキャラ……黒髪で子供っぽい笑顔のコと、こっちの長身で筋肉質な金髪のコです!」
恐らく佐藤は、ボクに質問したのだろうが、池田さんが答えた。
「ひょっとして佐藤。このキャラ原案……」
「ああ、もう池田さんには見せてる」
「そ、そうか。それで、二人をどう使おうってんだ?」
「こっちの黒髪のコですが、陸上部ってのはどうでしょう? メッチャ脚早いです」
「な、なる程なあ! 確かに陸上部ってありかもな。それを主人公がスカウトすんのか?」
「はい。たぶん、短距離走の勝負な感じがします」
「お。それ、オレも今考えてた」
「だけど、この主人公で勝てるのか? 脚は早くないんだろ?」
「そ、そうだよな。陸上部の脚の早いヤツに勝てるかどうか……」
「それなら主人公はドリブルしながら、黒髪のコはハードルを跳びながら競わせてはどうでしょうか?」
「さ、採用!」佐藤は言った。
「やったあッ!!」佐藤に飛びつく、池田さん。
「ほわッ!!?」
佐藤先生は、しばらく固まっていた。