運営ノウハウ
「おい、いいのか? オレとしちゃあ、二つの雑誌に載せられるなんて、有難いコトだが……」
「本来なら、良くはないだろうな」
佐藤の問いに、ボクは答えた。
「相手は、この地方に根差した地域密着型のサッカークラブだ。正直、ウチの読者が根こそぎ持って行かれるリスクだってある」
「それじゃあ……」
「けどな、佐藤。お前はウチのネット漫画雑誌で、漫画を描くメリットって無いと思うか?」
「そ……そうだな。無いとは言えない……というか、あると思うぞ?」
「それって、なんだ?」
「なんだって……上手く言えんが、お前はオレの漫画を、解ってくれているというか……」
「ああ、そう言うコトですか」
「そう言うコトって、なんだい。池田さん?」
佐藤は、解っていないようだ。
「ノウハウですよ。ネット漫画雑誌の運営のノウハウ」
池田さんは、ボクが言おうとしていた正解を、ズバリ言い当てる。
「ノウハウ? つまり、漫画家のノウハウ?」
「それもありますが、漫画家との接し方から、ネームの描き方、ネームの見方、背景の描き方から、色々ありますよね?」
「ふぅ、確かにそれを聞くだけでも、大変そうだな」
大倉野さんが言った。
「やっぱサッカークラブも、運営は大変なんですか?」
佐藤がぶしつけに聞く。
「そりゃあ選手もコーチもプロであれば、色々な要求をしてくる。結果を出せば、その分サラリーアップを要求されたりね。サッカーの場合、極めてトレードも激しいから、他のクラブの有力選手をリストアップしたり、まあ大変なんだわ」
「あと、スポンサーの意向とかあったりしますよね?」
ボクも、便乗して聞いてみる。
「それなんだよ。下部リーグにでも落ちた日には、スポンサー契約を解除されるコトもあるんだ」
「そ、それじゃあ、下部に落ちたらチームが解散!?」
「いや、それは無いから、池田さん。これだけのクラブともなると、スポンサーの数だけでも三十社以上は付いてるからね」
「そ、そうなんですか、佐藤先生! わ、わたしったら……」
「でも池田さんが言ったみたいに、下の方のリーグに行けば行くほど、付くスポンサーも少なくなり、経営も大変になってくるのも事実だ」
「確かにその点では、ウチは恵まれているな。日本のトップ企業がスポンサーに付いてくれている。だが、サッカークラブ運営のノウハウが、確立されているかと言えば、そうでもなくてな……」
「そうなんですよね、サラリーマン気質の親会社と、サッカークラブの運営が、うまくかみ合ってないというか、ノウハウが蓄積されないように見え……」
「お、おい、佐藤!」「あああ、え、偉そうにすみません!!」
ボクは、佐藤先生を慌てて止める。
「痛いとこ突くね、佐藤先生も……」
大倉野さんは、顔を引きつらせて笑っていた。