中々の人格者
「ま、まあ、ノウハウって実は、かなり重要なんですよね」
何とか、話題を変えようと必死なボク。
「そ、そうだねえ。どうやら漫画家も、扱いが大変だったりする?」
大倉野さんが、聞き返してきた。
「人によりますが、そりゃあもう、猛獣みたいなのもいますね」
ボクは、兼ちーのコトが頭に浮かんだ。
「サッカー選手も同じでね。気位が高いとか、性格がおかしいとか、ザラなんだよね。まあオレも、現役時代はそう思われてた気もするケドね」
大倉野さんも、オレとボクを使い分けてる人だった。
「そ、そんなに凄いんですか?」
とにかく気になった。
「日本人はまだマシだよ。世界じゃ、マジでヤバいのが多いからね」
すると、佐藤が大倉野さんの意見に同意するエピソードを語り始める。
「ですよね。野次った観客に跳び蹴り喰らわしたり、ある選手の彼女を寝取った挙句、その選手のチームのサポーターからブーイングされたのに腹を立て、点を取って聞き耳を立てるポーズをしたりとか……」
「な……サイテーですよ、佐藤先生!? なんなんですか、その人ォ!!」
本気で怒ってる、池田さん。
「他にも、チームメイトを脅迫したり、新人にベンチに追いやられたのに腹を立てて、仲間を募って……」
「大倉野さん、それ……女の子が居ますんで」「あ、スマン」
「ここじゃ、話せないコトのようだな?」
「要するにサッカーじゃ、『中々の人格者』ってのが大量にいるんだよ……」
「中々の人格者の使い方、間違ってるぞ、佐藤!」
どうやら漫画家の方が、多少はマシに感じてきた。
「でも、差別用語を吐きまくる兼ちーも、似たような気がしなくも……」
ボクは、深く考えるのは止めた。
「でも今回の話は、まだスポンサーに通したワケじゃないんだ。場合によっては、立ち消えになってしまうコトもあり得るんだよ」
大倉野さんは言った。
「でも、できるだけ準備はしておきたいですね。クラブホームページに佐藤の漫画を載せるくらいは、やれるように打ち合わせておきましょうか?」
「そうだね。じゃあ、ウチのホームページを作ってる、デザイン事務所を紹介するよ」
そう言うと、大倉野さんは名刺を一枚くれた。
「デザイン事務所……成瀬さん?」
「顔見せだけでも、今日のウチにやっておこうか? グンナーがグランドに居るだろうからさ。車で連れて行ってもらうといい」
「は、はい。今日は貴重な時間を割いていただき、有難うございました」
「いやいや、今後も佐藤先生とは、サッカー談義ができそうだし、うれしい限りだよ」
大倉野さんは、優しく送り出してくれた。