エル・サルバトーレ
「始めまして、わたしがクラブ代表の、大倉野です」
大倉野さんは、大きな手をボクの前に差し出した。
「こ、こちらこそ、宜しくお願いいたします」
緊張しながら大倉野さんの手を握ると、とても厚みがあって頼りがいのある手だ。
「キミたちの漫画は、読ませてもらっているよ」
大倉野さんは言った。
「メガネの方が、佐藤先生……でしたかな?」
「は、はは……はい。佐藤です」
「そんなに緊張しなさんな。お互いサッカー好きなんだから。佐藤先生は、ウチのクラブじゃ誰が好き?」
「そ、そうですね。すでに引退されてますが、妖精と言われた……」
「ああ、やはり佐藤先生の年代ですと、そうなりますかな? アッハッハ」
豪快に笑う、大倉野さん。
「ウチも、プロリーグが発足した当初からのクラブなんですがね。発足当時は、野球すら隅に追いやるくらいの人気だったんですわ」
「そ、そうですよね! ボクも生ではないですが、発足時の盛り上がりはビデオやネットで見ました」
佐藤センセイも、興奮気味に話す。
「それから20年以上が過ぎ、今じゃ日本全国にクラブチームが存在するに至ってるんですよ。3部リーグまで、存在していますからねえ。」
「3部まで!? す、凄いです」池田さんが、目を輝かせる。
「今じゃ日本のプロサッカーリーグは、アジアではブランドになってるんですよね」
「そ、そうなんですか?」ボクは、つい反論してしまう。
「例えば、ベトナムのスターが北海道のクラブにやってきたりと、日本人が考えている以上に、アジアではブランドと思われていたりね。日本の企業ももう少し、日本のプロサッカーリーグの持つブランド力に、気付いてくれると有難いんですが」
「ひょっとして、ボクたちが呼ばれたのって……その辺が?」
「そうですね。開幕当初は爆発的に盛り上がりましたが、それ以前は閑古鳥が鳴いていてね。そんな中での、プロ化だったんです」
「そ、それ、噂では聞いたことあります……」
佐藤が言った。
「噂じゃなくて、本当ですよ。企業リーグだった当時は、それは酷いモノでね。クラブもプレーヤーも、観客もスポンサーも、全てが未熟な時代でした」
恐らく大倉野さんは、その頃の経験者なのだとボクは思った。
「そ、それで、よくプロ化に踏み切れましたね……」
思わず、探求してしまうボク。
「実際当時は、プロ化なんて夢のまた夢だって意見が、大半でした」
「そ、そんな状況だったんですか!?」驚く佐藤。
「でもね、その時のチェアマンと共に、救世主だったのが、『サッカー漫画の主人公』だったんですよ」
大倉野さんは、懐かしそうな顔で語った。
「救世主が……サッカー漫画の主人公!?」
ボクは、佐藤や池田さんと顔を見合わせる。
「まさに日本サッカー界の、『エル・サルバトーレ(救世主)』だったね」
それは、ボクも良く知るサッカー漫画・アニメの主人公だった。