デザイン事務所
ボクたちはグンナーさんの車で、大倉野さんに紹介された、デザイン事務所の成瀬さんの元へと向かった。
「また、市内に逆戻りですね」
池田さんが言った。
「すみません、グンナーさん。予定に無かった場所まで、送ってもらって」
「気にするコト無いね。デザイン事務所の成瀬さん、大倉野さんのトモダチ……何度か会ったコトあるね。でも、ちょっとクセの強い人ね」
「そ、そうなんですか?」
「ま、サッカー選手比べたら、大したコト無いね」
豪快に笑うグンナーさんの車は、既にデザイン事務所の地下駐車場へと入る。
「さっきの話を聞いてなければ、安心するところなんだが……」
ボクは緊張の面持ちで、デザイン事務所の前に立った。
「あの、サッカークラブの大倉野さんの紹介で……」
「ああ、聞いてますよ。先ほど、電話があった方ですね。右手が待合室になりますので、そちらでお待ち下さい」
若い社員らしき人物に指示され、ボクたちは待合室で成瀬さんを待つ。
デザイン事務所の中は、人もパソコンも、電話も、全てが慌ただしく動いていて、殺伐としていた。
「おー、グンナーちゃん、久しぶり。キミたちが、漫画家の人?」
漂々とした感じのおじさんが、ボクたちの前にやって来た。
「始めまして、ボクは……」
「同じデザイン分野でしょ? ウチと被るじゃない。よく来れたねえ」
嫌味を言いながら成瀬さんは、目の前のソファーにドカッっと座った。
「ウチもデザイン事務所なんて言ってるケド、どこも客の奪い合いだからさあ。結局、客なんてそれなりのモノさえ出来れば、あとは価格なワケよ。新規に参入ってなると、ウチの下くぐったりしちゃってない?」
下をくぐるとは、お客さんにライバル企業を下回る価格を提示するコトである。
「確かにウチは新規で、ホームページも作ってますが、商品は漫画になりますね。ホームページと言っても、雑誌形式です」
「ふ~ん、どれどれ」
成瀬さんは自分のスマホで、ボクのネット漫画雑誌を確認する。
「あ~なる程。こう言うコトね。確かにこれだと、ウチとそんなに被らない気もするな。しかも、漫画を一本、ウチにくれるんだって?」
「い、いえ。共同で同時連載という形に……」
「ま、そりゃそうだわな。それでも、お人好しって気もするが」
成瀬さんは席を立つと、コーヒーとタブレットを持って戻ってきた。
「タブレットの方がデカくて、読みやすいんだよね。えっと、これがサッカー漫画か。随分と本格的じゃないか?」
「はい、ウチの佐藤の力作です」
「へー」空返事をしながら、漫画を読み始める成瀬さん。
「オー、ここで……なる程。ギャハハ……」
けっきょく成瀬さんは、ニ十分を費やして最新の話まで読んでしまった。